八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

第3回みえ木造塾と瀧原宮

第3回目のみえ木造塾が開かれました。

今回の会場は、大紀町にある薪ストーブの販売店であるひのき家さんです。

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元は町営の昆虫館だった建物を地元の吉田林業さんが買い取って、自社のスギ材を燃料として使うストーブ販売を始めたところで、立派な建物でした。

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講師は公共物のプロダクトデザインを手掛ける南雲勝志さんです。

家具デザイナーとして仕事をはじめ、街灯やサインなどの統括的にデザインする方面で活躍していらっしゃいます。今回新しくなった東京駅から皇居に至る行幸通りのデザインも現在進行中です。

今回のテーマは「記録をつくり、未来につなぐデザイン」で、木を使って市民参加を促している仕事の説明とそれに関わる考えをご講義いただきました。

南雲さんの地元で続けられていた林業による杉材の活用がされないことから、地場産木材を活かした街づくりに始められたそうです。宮崎県日向市、延岡市兵庫県姫路市秋田県秋田市などでの事例をご紹介いただきました。

その地を探求し、使用素材やデザイン要素を見つけだしていくやり方で、その地ならではの公共デザインを作られています。また市民を巻き込むことで、作ったものに愛着をもってもらうようにしているところも良いやり方です。一般に、木を使うとメンテナンスが大変で行政は嫌がるのですが、南雲さんは、市民みんなで作って、手入れもみんなでという手法で、木を使った魅力ある仕事をされています。

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皇大神宮別院 瀧原宮

ひのき家さんの向かいは、瀧原宮です。せっかく大紀町まできたので、参拝してきました。伊勢神宮の原型といわれるように、山を背負った構成となっています。樹齢300年を超える杉の大木が参道の脇からあって、森深く神聖な雰囲気があります。

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御手洗場も伊勢神宮と同じように川で行うようになっています。

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式年遷宮で社は新しくなったところのようでした。

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遷宮用に敷地が開いています。

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写真より鬱蒼した雰囲気で、神聖感ずっともあります。国道42号線沿いで分かりやすいところです。

工業高校インターン

昨年に引き続き、今年も工業高校の生徒さんのインターン研修に協力させていただきました。今年は女子生徒さんです。現場見学と模型作業、パソコンでの色塗りを実習してもらいました。模型も色塗りも初めてだそうで、結構たいへんそうでした。一方、現場見学は初めて実際につくっている現場を体験でき、うれしかったと言ってもらえたので、マイナスイメージばかりにならなくて、一先ずは良かったかと。

今回は設計業務の研修でしたが、生徒さんは、大工さん志望の気持ちもあるそうです。技能検定に向けて、木工練習中とのこと。

求人のお願いに県内の工業高校を回ると、大工さん志望の生徒が多いと聞きます。大工さんのほうも人材不足を感じていて、気持ちの上では需要と供給があるのですが、1人企業である大工さんが大半で、見習いを雇うことが難しいのが実情です。住宅メーカーも大工さん消滅を心配していますが、技術、人手のいらない家つくりも一方で進んでいて、大工さんのやりがい・報酬の増にはつながりにくい状況と思います。

設計者としては、お互いの技術力量を十分に発揮できる親密な共同作業を目指してます。

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金沢の建物

社員旅行で金沢に。谷口吉生さん設計の「鈴木大拙館」見てきました。

谷口さんらしい、きちんとした建物で厳しい施工精度で作られています。施工は清水建設と豊蔵組です。

地元出身の仏教学者 鈴木大拙の精神とされる「静か」「自由」の具現化を図ったとされています。本多の森公園と住宅地の接点となるところに立地していますが、公園の緑を借景として、ほかの要素を排除した周辺から独立した静的空間を作り上げています。

谷口さんのストイックな設計と施工精度から生み出す独自の雰囲気です。

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思索の空間 この施設のメインの空間です。

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コンクリートがきちんと打設されています。建具の枠も無しです。構成する線をなくすことでよりシンプルですっきりした印象になります。

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金属ルーバーの付け根の石がルーバー型に沿ってキレイに切り取られているように見えます。

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金沢に来る度に訪れる武家屋敷街長町にある野村家武家屋敷跡。今回3回目です。

最初に見たときの強烈な印象が正しかったのかが気になって、何度も来ますが、やはり凄い庭です。米国の庭園専門誌が選ぶ日本の庭園ランキングで足立美術館(島根)、桂離宮(京都)に次ぐ第3位になっています。

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この庭の魅力は狭い場所でありながら周辺の様子とは全く違った空間を作っているところです。庭の池は2段になっています。下部の池の水深が深いので室内からは縦に深い空間が印象づけられます。中二階になっている茶室からの眺めは、さらに立体的で山中の谷間にあるような景色にも見えます(周辺は路地の入り組んだ市中です)。

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どちらの建物も周囲とは別世界をつくっている好例です。金沢という土地の文化環境にもよるものでしょう。

 

 

竹原義二 講演

木造についての勉強会、三重木造塾の第2回は著名な建築家である竹原義二さんの講演会です。竹原さんの作品は木を表した自然素材を活かした住宅が有名です。

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今回の会場は、竹原さんのリクエストで三重大学のレイモンドホールです。せっかくの機会なのでレイモンドの作品でと起ってのご希望でしたが、冷房設備がないのを確認しなかったとのことで、本日33度の気温で、キツイ講演会となりました。

準備した講演資料がパソコンから出せないということでしたが、レイモンドホールの特徴を使いながらの特別仕立てで、今取り組んでいる事項を、わかりやすく愉快にお話いただきました。

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今取り組んでいらっしゃるのは、子供たちへ本物の建物を経験させることと、障害者芸術を広め、評価を高めていく活動です。どちらも手間を惜しまないことが、いかに素晴らしいものをつくれるかということにつながっています。一般の建築が、手間を少なく、諸問題の発生を極力避けることに傾向してしまっていることに苦言を呈しています。

 

祝 竣工

本日、四日市つばめ交通 新事業所竣工式が行われました。梅雨の期間で天候が心配されましたが、今日は暑いほぼの晴れの天気で、建物映えもよく、良い日に恵まれました。

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昨年12月に設計のご相談をいただいて、およそ6か月で竣工に至る、短期集中の物件です。施工期間は地鎮祭から3か月半です。

建物計画は、必要な要素をできるだけ、整理して、コストを抑えつつも、きちんとした印象とすること、使い勝手のよいことが目標でした。来賓の方にも良い印象を持っていただけたようで、幸いでした。

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新事業所移転に際し、女性ドライバー大幅増員だそうで、竣工式にも新規導入の女性ドライバー専用タクシーのお披露目もありました。今回デザインも新しく作成されたとのことで、ボンネットには「Cabette」という愛称が書かれています。当初の予想よりも女性の応募が多く、急遽ロッカー室の設定を変えたりもしました。女性は昼間乗務が主だそうですが、タクシー運転手さんは女性がやりやすい仕事のひとつですね。

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ハイブリッド車です。

伊賀市庁舎

ドコモモ*の第1回定例会の一端として、伊賀市庁舎の見学会・ドコモモ選定プレート授与、シンポジウム「モダニズム建築を使い続ける」が行われました。

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何度か上野市庁舎を見に行きましたが、休日ばかりだったので今回初めての内部見学となりました。

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土地の高低差に対応したスキップフロアの構成で、天井の高い執務空間と天井高さの必要ないのバック施設2層を下階に配しています。上階は2つの中庭に挟まれた議事室と関係の諸室があります。

ご案内いただいた設計担当だった好川さんのお話では、上野市の財源は少なく木造住宅の半分の単価で作られたそうです。今では貴重となったスチールのサッシュも建具としてではなく、鉄骨工事で製作し、ガラスの厚み3mmでできる窓サイズにして工事費を節約したとのことでした。当時、高った材料費をおさえても、質の良い空間になるよう、しっかり手間がかかっています。関わった人の手間、熱意が最新の建物にない良さなのでしょう。

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もっとも安かったタイルを使ったというところも、床と壁を連続するように作られています。

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コンクリートも掻き落とし、木板型枠、テクスチャーのある吹付材仕上げなど、質感を重視した様々な仕上げ方で意匠を見せるところは、現代のシンプル・単一志向の建物以上に設計者のセンスが問われます。

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上階の廊下は屋上庭園に面しています。諸室は外側の樹木に対して大きな開口があるので、どこにいても緑が感じられます。坂倉オリジナルの椅子・ベンチが今も使われています。

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雨落としはコルビュジェ風、雨受け部にはかなりワイルドな石積みで欧州風の印象です。

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ドコモモ選定プレート。保存活用を推す現伊賀市長に授与されました(市長さんがお持ちしている写真)。庁舎を活用保存する提案で当選を果たした市長ですが、議会の反対で庁舎は取壊しになりそうです。市長の提案は、現建物を耐震改修など必要な措置をした上で、図書館を核とした、ギャラリー・観光案内などの複合施設として再生活用するものです。一方、議会では、現建物を取壊し、跡地を広い駐車場を備えた観光施設として新たに整備することを決議しているそうです。

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その後のシンポジウム。伊賀市庁舎の設計担当だった元坂倉準三建築研究所 好川さんによる設計経緯。ドコモモ代表の京都工芸繊維大教授 松隈さん、ドコモモ委員の鰺坂さん、みえヘリテージの会の滝井さんのお話でした。

世界的な事例を紹介しつつ、モダニズム建築のもつ価値を一般の方に理解していただく難しさをお話されました。それ以前のシンボリックな建物の荘厳な印象や最新建物の目新しさ設備の良さは理解されやすいのです。

モダニズム建築は

・建物と周辺環境の関係に配慮した最初の建築スタイル

・当時の最新技術を駆使した開放的空間

・権威化をせず、一般の人に平等に奉仕する民主的な建物

が特徴です。身近に使用され続け、価値を意識されない建物となっています。

モダニズム建築(20世紀の建物)は、世界的にも重要視されていな傾向があります。

欧州から、このままでは20世紀に作られてた建物が歴史から欠落されてしまうと危機を感じ保存運動がはじめられました。工場などの建物が最近になって世界遺産などの文化財として登録されるようになっています。これらの建物は美術品のように鑑賞物としてではなく、用途を変えるなどして、使う建物として保存されている例が大半です。耐震性・設備も改善できてます。

モダニズム建築の価値を周知する手法は、模索中です。建築に関心がある人でないと、良さが見えてこないというものなので、子供のころからの建築に対する教育が一つの方向性です。欧州では、建築に対する関心が高く、子供のころから、そういった視点を教えているところがあります。今回シンポジウムを傍聴していた現市長が小学校の頃「この建物は、立派な先生に作ってもらったんものだ」と教えられ、大切にするものだと思って、今に至っているとお話されました。

専門家にも、モダニズム建築の良さは説明しにくいのですが、古い民家に行くと開放感や身近なもの質感で気持ち良いのと同じように、モダニズム建築も最新の建物以上に気持ち良さを感じるものだと思います。

*ドコモモ (DOCOMOMO=Documentation ando Conservation of buildings,sites and neighborhoods of the Modern Movement)

ダン・ムーブメントにかかわる建物と環境形成の記録および保存のための国際組織

ドコモモ・ジャパンは、主に建物の保存に力を入れています。既存のままというのではなく、性能改善、用途変更を行い、使い続ける建物とすることを重視しているように思われます。図面など資料の保管は文部科学省のほうで行われ、多くの資料が収集されています(定期的に国立近現代建築資料館国立近現代建築資料館で展覧会が催されています)。三重県内のドコモモ選定は伊賀市庁舎(旧上野市庁舎)、ただ1件(全国184選中)です。

 

 

 

梅郷礼拝堂 見学

千葉県野田市に建てられた墓地に付属の礼拝堂「梅郷礼拝堂」の見学会に行ってきました。

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設計は加藤詞史さん、構造設計は山田憲明さんです。加藤さんは大学の同じ研究室所属していました。見学会のご案内をいつもいただきます。今回は設計と施工の経緯の説明も行われました。

礼拝堂として独立した建物で、3方向におなじ形が伸びるシンプルな空間を一つの架構形式で構成した力作です。設計の検討も施工も大変手間がかかっているようです。ほぼ構造体すべてが内装仕上げ材となって空間をつくる隠すところのない本来的な建築です。施設の持つ意味、対応年数に掛かる考え方、周囲の要素にも配慮したきちんとした建築計画です

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120角の木材のピースを組み合わせて柱梁が一体となった構造です。「南京玉ずだれ」のように線材がずれてつながることで架構をつくります。

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木材の収縮や圧縮耐力に配慮し仕口が検討され、特殊な機械加工よる工場機械カットで仕口加工されています。ドイツ製の機械だそうで、加工時間の試算も行い、施工効率の検討もされたそうです。

最初に中心の3本が固定され、3方向に伸ばすように組んでいきます。組まれた柱梁に垂木のガイドとなる曲線材(屋根面の切替えのライン)を固定しそれに沿う形で垂木を固定していくことで屋根を作っていきます。細い曲線材にほぼ1点ずつで固定していくので垂木は不安定な状態で、屋根の面材が貼られるまではきちんと固定されず、施工はとてもやりにくそうです。屋根は銅葺きですが、構成上、中心部の尾根がほぼ水平となるので、屋根屋さんの長年の蓄積に助けられたとのことです。

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軒先をシャープに見せるよう表に見えない工夫がされてます。コーナー部軒天部は完全化粧垂木。野地板上に横方向に構造垂木と通気層、断熱材が配されています

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空調機も機器露出です。余計なカバーや樹脂材を避ける気持ちには共感します。

壁紙は京都の渋掛け和紙です。

 

 

 

 

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