八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

日本建築家協会 フィールドトリップ

日本建築家協会主催のフィールドトリップ。協会で優れた建築に送る建築大賞に選定された建物を一般の方にも紹介するイベントとして催されたものです。今回は第1回で大阪中之島美術館で行われました。設計者の遠藤克彦さんに設計から竣工までの苦心の様子を説明、建物の見どころを案内していただきました。

設計の思い、使用者の要望をコストの調整を行いながら、質の高い建物を作り上げています。正方形の平面とパーツサイズの統一などを徹底するため、厳密な寸法の割付で作ってあって、設計者も大変ですが、施工も大変な労力がかかったと思えます。

単純な形状ですが、頂部までガラスになっている大きな窓、真っ黒に見える外壁には、普通のやり方ではつくれないものです。

きっちり割り付けられた天井と壁の金属パーツ。防災必要な天井・壁面機器もその割付のなかに組み込まれています(使用頻度の少ないドアも)。パーツの余りはありません。

ほかの遠藤さんの建物もみたくなって、この美術館の後にできた大子町庁舎にも行ってきました。

こちらもすごい労力と思われるものです。モノづくりが相当好きな方なのだと感じました。

耐震補強の効果

春の企画展の資料確認のため、調布市武者小路実篤旧邸に。昭和36年竣工で、15年ほど前に見た目わからないようにこっそり耐震補強をして、東日本震災も建物被害なくやり過ごしました。内部アトリエは創作活動当時のまま。数年前に国の有形文化財に登録されました。土日は内部見学も可能です。旧邸と2つの池のある敷地全体が市の実篤公園となっていて、隣接地に坂倉建築研究所設計の市立記念館があります。

 

耐震補強の効果

春の企画展の資料確認のため、調布市武者小路実篤旧邸に。昭和36年竣工で、15年ほど前に見た目わからないようにこっそり耐震補強をして、東日本震災も建物被害なくやり過ごしました。内部アトリエは創作活動当時のまま。数年前に国の有形文化財に登録されました。土日は内部見学も可能です。旧邸と2つの池のある敷地全体が市の実篤公園となっていて、隣接地に坂倉建築研究所設計の市立記念館があります。

 

新店舗オープン

日本橋三越内に天一さまの新店舗がオープンしました。天一さまの店舗15店目です。

今回は和風の店舗となっています。百貨店の要望で店舗境をオープンにするものとなりました。和の空間の特徴である奥に続く構成とし、落ち着いたゾーンも作っています。

柔らかに区画することを考え、隔てられた感じがあっても、閉じ込めらえれた感じがないように障子での仕切りや視線の通らない高い位置での開口などを配置しています。

色合いの統一感を持たせ、穏やかな和の空間を作れたと思います。

 

建築文化講演会 長坂常さん

所属している日本建築家協会三重地域会の主催する建築文化講演会がありました。毎年1回世界的に活躍している建築家の方に三重県に来てもらって講演していただく会です。近年はWebをつかって聴講をすることができるようになりましたが、直接お会いできる機会は本当に有意義だと感じています。

今回の講師は長坂常さん。東京下町の銭湯の改修などで有名ですが、ブルーボトルコーヒーやイソップなど内外多くの有名企業の店舗を手掛けていらっしゃいます。

建築家協会が主催するということで、設計者が聴講にくると考えられたのか、作品のより、どのような試みをしているかを中心にお話しいただきました。

今回のお話では、住まいや店舗の内装の仕組みを提案して使っていく人たちが自分たち空間を作っていくようなところに面白みを感じているとのことでした。

関わる仕事について、社会的な意義を掲げて自分の作品を表明しているところや部材や仕上を自作してたりして、安価な材料に手間をかけたもので空間を作っていくところは、芸大系、アーティスト的な仕事ぶりだと感じました。内装を作っていく作業もイベントとして世の中にアピールすろこともやられています。お話の冒頭に建築を仕事にしはじめたころの好きなことと仕事のギャップがあったが、それがなくなったとおっしゃていたそのままに好きなことを楽しんでいることが伝わる講演でした。

講演を聴講する前に長坂さんの狛江湯に行ってきました。

銭湯周辺に住んでいる人の寝る前の時間に風呂屋で入浴、飲みを組み込んでいくことを目指したそうで、狙い通りの賑わいとなっていました。長坂さんも近所にお住いのようでよく利用されるそうです。古い躯体の中に新しいタイル壁で作った機能空間をいれた素材の強さを感じる作品でした。

 

 

バスタ四日市

近鉄四日市駅前では各方面への起点となるバスターミナル(バスタ四日市)の建設工事が進んでします。1kmほど離れたところにあるJRと近鉄四日市駅を結ぶ幅員50mの

通りを改造していく計画です。

今年6月に市の発表した資料で概要が分かります。近鉄駅前にバスターミナル、JRの駅に向けて公園として整備しなおされるようです。

近鉄駅前には円形のペデストリアンデッキ(歩道橋)ができるようです。バスの乗り場はブース数確保の都合と思われますが、車道を渡ったところになっています。

<四日市市発表の資料より引用>

www.city.yokkaichi.lg.jp

駅前の歩車分離のためのペデストリアンデッキ、人工地盤は各所にありますが、良い印象のものはありません。大型車を通すようにつくるので人の動きとスケール感があわないのだと思います。交通量の少ないことになれた人たちはわざわざ歩道橋を渡らないように思えます。また商店街と分断されてしまう形の乗降場も、せっかく人の集まる要素が街のにぎわいに寄与しにくいように思えます(どこのバスターミナルもバスの通る車道で切り離されてしまう)。できればバスを待ってる人が商店街側に居られると、待ちの間のお茶とかで街が潤うようにしたいところです。

円形の歩道の良くない事例が新横浜駅前にありました。大きな鉄骨が目立ち、ごつさが際立っています。四日市に作るのはもっと軽やかにしてもらうのか心配です。

<新横浜駅前の交差点にある円形歩道橋>

歩車分離も広場の中に目立たずにやるようになっているのでしょうか。ヨーロッパの広場では、歩行者優先の空間として、車道も想定されいます。通過交通を別に処理しておけば、限られたバスの制御は無理ではないのではと思います。

 

<イタリア レッコの中心部>

<四国 松山市道後温泉駅にも>

ここを訪れる人は旅行など出かける人だけではなく、公共交通機関が充実していない四日市では、送迎の人もかなりいるので、そういった人たちの利便性を重視することでも、地方ターミナルの新しい価値が出てくるのではないかと考えています。


計画の協議会に地元人の建築専門家がいないことがとても残念です。設計にあたる人たちに責任の重さを十分感じてもらって、地元の人たちが誇れるような新しい価値をもつバスターミナルとなることを期待しています。

羽島市役所旧本庁舎 解体の危機

坂倉準三設計の羽島市役所旧本庁舎(1959年竣工・2003年DOCOMOMO100選)は解体準備予算が可決され、解体に向けて具体的に進んでいる状況にあります。10月1日市内の不二羽島文化センターにて市民有志による「羽島市役所旧本庁舎の利活用に関するシンポジウム」が行われ、一般聴衆として参加してきました。今年5月に続く第2弾で、会場参加者は80名ほどWeb登録は98名でした。

文化的価値のある建物を本当に壊してよいか、市の負担を軽減して利活用する方策がないかを、成功事例を参考にしながら市民と一緒に考える機会として催されました。

司会は清水隆宏氏(愛知工大准教授)、当初は市の旧庁舎あり方委員会のメンバーで6年以上存続に関わってきています。

基調講演「羽島市役所旧本庁舎の重要性について」中川武氏(早稲田大学名誉教授・明治村館長)私の大学時代の西洋建築史を教えていただいた恩師です。

旧本庁舎をこの地に残す重要性について、明治村に移築された建物やカンボジアなどで維持保存に関わった経験から、次世代につなぐ価値についてお話されました。市民には空間体験が大きく記憶に残っていること、実際の空間がなければその価値はつながっていかないと。庁舎を建設当時の一面の蓮田に建つ「1000年永らえる理想郷の蓮の花」に例え、未来に地域文化をつなげていくシンボルであると説かれました。

 

「上野市庁舎の保存・活用成功事例について」滝井利彰氏(伊賀市文化財保護審議会委員)。日本建築家協会三重地域会で親しくさせていただいています。

上野市庁舎に関わる14年間の経緯を話されました。旧上野市庁舎はその直近で建設された羽島市役所の評判より坂倉に依頼されたそうです。存続が危ぶまれたころ、近代美術館鎌倉で坂倉準三展を知り、伊賀市での巡回展を企画、朝日新聞に特集を掲載させるなど市民に訴えかけたこと、利活用派の現市長に擁立して議会に対抗できる体制を作ったことなど、できることを目一杯やった苦労をお話されました。保存へ向かう中でも市民への働きかけを欠かさず、現在PFI事業による改修の実施設計が進められて利活用が実現しつつあります。あきらめない粘り強さが必要と激励されました。

神奈川県立近代美術館 鎌倉の保存改修に関する成功事例について」山岡嘉彌氏(山岡嘉彌デザイン事務所代表)前職の坂倉建築研究所で一緒に働いていた方です。

土地の借地期限満了に伴い解体の危機となったが住民の反対により、鎌倉文華館・鶴岡ミュージアムとして整備完了した経緯。八幡宮と一体化が求められメイン入口変更など本来とは異なる建築計画の許容、文化財指定のために竣工当時の姿に戻す各部の改修、表に見えない形での耐震補強など実際の活用に至るまでの苦労をお話しいただきました。

 

「旧本庁舎の保存利活用に関する経緯のまとめ」時田憲章氏(羽島あすなろ会代表)

平成29年のアンケートでは7割が利活用を望んでいたが、市の試算による改修費用とその後のメンテナンス費用の発表により、保存の機運は弱まっていったそうです。

最終のあり方検討委員会には地元建築家はメンバーに入らず、建築的文化的な評価がないままに進められた。市は民間活用を公募したが明確な評価もないまま、令和4年12月に耐震性などを理由に解体を発表し、令和5年3月に解体準備予算が可決。12月には解体予算の採決が予定されていると切迫した状況を伝えられました。

羽島市役所旧本庁舎の利活用に関する評価のまとめ」鰺坂徹氏(DOCOMOMO Japan副代表)

DOCOMOMOからは保存の価値を時間をかけて検討できるよう解体の延期を求めている。

坂倉作品の中で唯一スロープの構成、そり屋根などが残っている貴重な建物。パリから帰った坂倉の地元での仕事としての熱意が伝わる。日本では建築の評価が低い。近代建築は失われると2度と戻らない。喪失を防ぎ次世代で活用することが必要。大きな視点での価値を一個人の考えで失ってしまってはいけないと述べられました。また耐震改修の検討もまだ不十分と。

 

各氏の講演を踏まえその後の討議では、市との話し合いの場を作ること(今回も市の関係者が臨席していない)、地元建築家の関与が利活用に向けて必要であることなどが話され、解体是非の議論をより重ねる必要性は共有されたように思えます。

最後にモデュレーターの堀田典裕氏(名古屋大学准教授)のまとめの中で示された「歴史上・芸術上・学術上の価値がある文化財」「羽島市庁舎は市民だけのものではない」という言葉により、一つの建物はその地にあってこその価値が強いため。保存を地元市民だけの問題として委ねきた感がありましたが、それでは保存は大概不可能で、日本中の人に問うていくべきものという思いが強くなりました。

 

www.hattake.co.jp