八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

羽島市役所旧本庁舎 解体の危機

坂倉準三設計の羽島市役所旧本庁舎(1959年竣工・2003年DOCOMOMO100選)は解体準備予算が可決され、解体に向けて具体的に進んでいる状況にあります。10月1日市内の不二羽島文化センターにて市民有志による「羽島市役所旧本庁舎の利活用に関するシンポジウム」が行われ、一般聴衆として参加してきました。今年5月に続く第2弾で、会場参加者は80名ほどWeb登録は98名でした。

文化的価値のある建物を本当に壊してよいか、市の負担を軽減して利活用する方策がないかを、成功事例を参考にしながら市民と一緒に考える機会として催されました。

司会は清水隆宏氏(愛知工大准教授)、当初は市の旧庁舎あり方委員会のメンバーで6年以上存続に関わってきています。

基調講演「羽島市役所旧本庁舎の重要性について」中川武氏(早稲田大学名誉教授・明治村館長)私の大学時代の西洋建築史を教えていただいた恩師です。

旧本庁舎をこの地に残す重要性について、明治村に移築された建物やカンボジアなどで維持保存に関わった経験から、次世代につなぐ価値についてお話されました。市民には空間体験が大きく記憶に残っていること、実際の空間がなければその価値はつながっていかないと。庁舎を建設当時の一面の蓮田に建つ「1000年永らえる理想郷の蓮の花」に例え、未来に地域文化をつなげていくシンボルであると説かれました。

 

「上野市庁舎の保存・活用成功事例について」滝井利彰氏(伊賀市文化財保護審議会委員)。日本建築家協会三重地域会で親しくさせていただいています。

上野市庁舎に関わる14年間の経緯を話されました。旧上野市庁舎はその直近で建設された羽島市役所の評判より坂倉に依頼されたそうです。存続が危ぶまれたころ、近代美術館鎌倉で坂倉準三展を知り、伊賀市での巡回展を企画、朝日新聞に特集を掲載させるなど市民に訴えかけたこと、利活用派の現市長に擁立して議会に対抗できる体制を作ったことなど、できることを目一杯やった苦労をお話されました。保存へ向かう中でも市民への働きかけを欠かさず、現在PFI事業による改修の実施設計が進められて利活用が実現しつつあります。あきらめない粘り強さが必要と激励されました。

神奈川県立近代美術館 鎌倉の保存改修に関する成功事例について」山岡嘉彌氏(山岡嘉彌デザイン事務所代表)前職の坂倉建築研究所で一緒に働いていた方です。

土地の借地期限満了に伴い解体の危機となったが住民の反対により、鎌倉文華館・鶴岡ミュージアムとして整備完了した経緯。八幡宮と一体化が求められメイン入口変更など本来とは異なる建築計画の許容、文化財指定のために竣工当時の姿に戻す各部の改修、表に見えない形での耐震補強など実際の活用に至るまでの苦労をお話しいただきました。

 

「旧本庁舎の保存利活用に関する経緯のまとめ」時田憲章氏(羽島あすなろ会代表)

平成29年のアンケートでは7割が利活用を望んでいたが、市の試算による改修費用とその後のメンテナンス費用の発表により、保存の機運は弱まっていったそうです。

最終のあり方検討委員会には地元建築家はメンバーに入らず、建築的文化的な評価がないままに進められた。市は民間活用を公募したが明確な評価もないまま、令和4年12月に耐震性などを理由に解体を発表し、令和5年3月に解体準備予算が可決。12月には解体予算の採決が予定されていると切迫した状況を伝えられました。

羽島市役所旧本庁舎の利活用に関する評価のまとめ」鰺坂徹氏(DOCOMOMO Japan副代表)

DOCOMOMOからは保存の価値を時間をかけて検討できるよう解体の延期を求めている。

坂倉作品の中で唯一スロープの構成、そり屋根などが残っている貴重な建物。パリから帰った坂倉の地元での仕事としての熱意が伝わる。日本では建築の評価が低い。近代建築は失われると2度と戻らない。喪失を防ぎ次世代で活用することが必要。大きな視点での価値を一個人の考えで失ってしまってはいけないと述べられました。また耐震改修の検討もまだ不十分と。

 

各氏の講演を踏まえその後の討議では、市との話し合いの場を作ること(今回も市の関係者が臨席していない)、地元建築家の関与が利活用に向けて必要であることなどが話され、解体是非の議論をより重ねる必要性は共有されたように思えます。

最後にモデュレーターの堀田典裕氏(名古屋大学准教授)のまとめの中で示された「歴史上・芸術上・学術上の価値がある文化財」「羽島市庁舎は市民だけのものではない」という言葉により、一つの建物はその地にあってこその価値が強いため。保存を地元市民だけの問題として委ねきた感がありましたが、それでは保存は大概不可能で、日本中の人に問うていくべきものという思いが強くなりました。

 

www.hattake.co.jp