八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

小嶋一浩の手がかり展

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私の好きな建築家の小嶋一浩さんのGAギャラリーでの展覧会。小嶋さんは昨年、急逝されました。私が大学にいたころ、活躍され始められて、常に注目している存在でした。施設の新しいしくみを提案し、それを具現化した新しい形の建物をつくってこられたように思います。

とくに学校建築では、そうした取り組みが成功し、新しい形態の建物により可能となる新しい教育のしくみを実現して高い評価を得ています。埼玉の新興住宅地では、小嶋さんたちの設計された学校の評判がよく、その町に住みたいと多くの住民が集まったといわれるほどでした。建築の力で街の評価を上げるのは、建築家にとってこの上なく名誉な感じです。

しくみを尊重した設計でも、理論的に頑なになっていくのではなく、各所に建築的な面白さも取り込んでいくので、楽しさのある建物になっています。建築に関わっている人しかわからないようなこだわりがあったりして、つねに学生が設計したような挑戦的な要素を感じられるところが魅力です。

展覧会は、スタディの過程で作られた模型やメモ、スケッチの展示と最後の仕事となった山元町役場についてのインタビュー映像が流され、楽しさを発見・作りこんでいく設計の様子がうかがえます。

インタビューの山元町役場は、この夏着工しました。出来上がるのが楽しみです。

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タイル視察

今掛かっている3物件のためのタイル候補をLIXILプレゼルームで見せていただきました。

和食料理店内装のグレー系の大判タイル

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住宅の外壁のためのテクスチャのあるタイル

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住宅玄関にベージュ系のタイル

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輸入タイルに比べ、国産品は色合い、面形状と一般的な公共建物でよく使われている印象のもので、こだわりのある個人邸には、そぐわない感じ。イタリアのメーカーなどは色もきれいでテクスチャもメリハリがあります。最近はイタリアメーカーが中国などコストの安いところで作っていて、価格も国産と変わらないものもあります。意匠性に引け目を感じている日本メーカーは、対抗せず機能面に力を注ぐことになっているようです。

輸入タイルについては、ヨーロッパでは外壁にタイルを貼ることは少なく、耐凍性のある外壁用のタイルはあまりありません。また色巾(柄目)のばらつきが大きく、壁に使うと日本人の許容範囲を越えてしまうものが多いです。

また日本で最も抵抗なく受け入れられるベージュ系は、諸外国ではほとんど人気がないので、あまり作ってくれません。たまによさそうなのを見つけても、すぐに生産中止になってしまいます。

このあたりを補うように、国内メーカーが頑張ってくれると良いのですが。国内メーカーも大規模開発時にその物件用につくる特注タイルは結構魅力的なものを作ってくれるのですが、在庫販売品は無難なものに限られているように思えます。

静岡の建築

静岡県舞台芸術公園

静岡市中心部から車で20分ほどの日本平の山の中の施設。2007年創立、設計は世界的に著名な磯崎新さんです。大学の先輩が舞台絡みで最近訪れたと聞いて行ってみました。

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眺望を活かしたり、茶畑を取り入れた地域感、谷地形の使った劇場など地形を利用した建物配置と建物形態の上手さは流石です。

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外装の木材に少し痛みは出ていますが、素材感のある建物は自然の中にマッチしています。

磯崎さんの手掛ける計画は、運営面もきちんとしているように思います。この施設も、著名な方が運営に参画し、施設が継続して使われ、文化的な役割を果たしいるようです。市街地にある磯崎さん設計のホール(グランシップ)も連携しています。

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日本基督教団 駿府教会

2008年竣工、設計は西沢大良さんです。内外装とも線材の木を使った建物です。あいにくの雨天でしたが内部はトップライトからの光で明るくキレイでした。

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細い線材での構成は、乱れやすいので荒れているかと思っていましたが、しっかりした印象でした。壁面の透け具合もきれいなグラデーションできちんと施工されている感じです。壁面に開口がないので少し空気がよどんでいる感じはありました。でも良い感じの建物。

静岡ガス

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2013年竣工、日建設計。ガス会社の本社ビルで通り沿い1階は全面ガラスのショールーム駿府街道沿いの景観づくりに配慮した建物。県内産の木材のルーバーや再生可能エネルギー設備、コジェネ施設など地域のガス会社に相応しい環境配慮が盛り込まれています。真面目な感じの好感のもてる建物。

静岡市内には、ほかにも内藤廣さん設計の体育館や古くは白井晟一さんの博物館など、建築的評価の高い建物があります。東海圏で三重県はそんな建物がかなり少ない印象です。建物に対する関心もが薄くなるのではと気になります。

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みえ木造塾 堀部安嗣さん講義

第5回目のみえ木造塾の講師は堀部安嗣さんです。今回も三重大学レーモンドホールです。

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堀部さんは昨年、日本建築学会の最高賞といえる作品賞をとられた方です。吉村順三先生の系統で住宅をメインに設計されています。

吉村一門なので、建物の細部・性能については厳しく作られます。その中でも堀部さんは、現代的なセンスが感じられるので、若人にも人気があります。

今回の講義は、堀部さんの好まれるもの(主に古い建築)を紹介して自分の建築感を説明するものでした(たぶん、聴衆の大半が実際に住宅を作っている人たちなので、自作をメインの講義とするのを控えたのでしょう)。

10年ほど前に、お話を伺ったときは、正方形や五角形のプランで住宅をつくることをご紹介いただいて、恣意的なことを避けて幾何学で解こうとされていたように思えましたが、今回の講義では、ご自身の好きなもの、たとえば古い建築のもつ素朴で力強くかつ心地良いところなどを、ただつくりだすことを目指されているように感じました。

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自作の説明としては特に最近竣工したクルーズ船の説明をされていました。

木のもつ、継続性や材として調湿・吸音などの特性に注目されているようです。

蓄熱式床暖房

現在建設中の平屋住宅に、蓄熱を活かした床暖房を採用しています。

べた基礎のコンクリート躯体を蓄熱要素として使います。基礎の外側(下部も)に断熱を設置し、熱を逃がさないようにしています。シュミレーションでは一般的な熱パネル式のものの半分以下のランニングコストで賄えます。

床暖房の仕組みは温めた空気を循環させるものです。空気はダクトの中を通るので、床下を通してもゴミやほこりの心配はありませんし、直接その空気に触れることもないのでクリーンです。

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こんな感じでダクトが通ります。本来はコンクリート内に打ち込むのですが、這わすだけでも十分な効果を得られるのは実証済みです(写真奥の方はコンクリート内になってます)。この上に床を張り込んでいきます。将来地震などで万が一ダクトに穴が開いてもさほど支障が出ないのが、水循環より安心な点です。

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熱交換ユニット部。ここで温めて空気を循環させます。今回の熱源はヒートポンプ式です。電化住宅のために、ヒートポンプを選択しました。ちょうど点検口サイズになってる熱交換部と外部の熱源機器は将来取り換え可能な形で設置します。ガス熱源にすることもできます。メンテナンスもこの部分のみです。

スウェーデンのシステムで現地ではかなりの実績があります。国内でも蓄熱の有効性が取り上げられ増えてきています。在宅時間が長く、家中くまなく暖房しておきたい(ヒートショックのない)家を望まれる方に最適です。

 

 

喜多家 (石川県)

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金沢に近い石川県宝達志水町にある国重要文化財1971年指定の住宅。明治村の館長 中川武先生(早稲田大学名誉教授)が最も立派な民家としてお話いただいた住宅です。

喜多家は豪農で、年貢を集めたりする役所的な働きもしていました。そのため住宅には農民である住人用のスペースと武士が来て、調査などをする場所が区分けされています。また前田家の参勤交代時の陣屋としての機能もあり、一般的な住宅とは異なった構成になっています。

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一番の特徴は、建物が周囲より、1.5mほど低く掘り下げたところに建っていることです。説明によると外様大名であった前田家の陣屋として、目立たないようにしたためだそうです。周辺に木々を配し、敷地の奥まで入らないと建物の大きさはわかりません。

アプローチは平地なのどんどん下がっていく違和感があります。説明をしてくださったのは喜多家の方だったようですが、現代の観光資源としては、マイナスと考えておられるようでした。

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窪地にある建物として、水が溜まると心配されますが、ここは海岸を車で走れる千里浜なぎさドライブウェイのすぐ近くで地面は相当な砂地で水が溜まることはないようです。

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玄関は使用人用、農民用、武士用、殿様用に4つあります。殿様用が一番手前に突き出ていて、位が下がるに従って後退しています。写真は奥から殿様用。

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農民のゾーン。役所的な仕事をしていた部屋、天井があってあるのは、ある程度の地位を認められたので許されているとこのと。食堂は板の間。寝室などは奥の別棟的なところにある。

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役人武士のゾーン。一段高くなって、空間的な区切りを持つ。

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武士が農民からの話を聴取した部屋、外の農民と格子隔てて面談。格子は内開きの断面形状で外から中の武士の顔が見えにくく作られています。武士と面と向かわないことで包み隠さず、意見が言えるようになっているそうです。

殿様ゾーン。陣屋(宿泊所)となっています。

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一間幅の縁側廊下は敵に槍で襲われた際も届かないようになっています。立派にみえないようにという配慮で部屋は小さいです。

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殿様の寝室。柱は漆塗りで上質感と共に耐久性を増す意図です。

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その裏には警護の侍が隠れていた小部屋があります。昼間は茶室として使われるようです。気持ちが柔らくようにと壁は緑色です。もともとは殿様の寝室とドンデン返しの扉で繋がっていましたが、明治以降必要なくなり、壁になっています。文化財指定で現状維持が強いられ、復旧できないのが残念とおっしゃっていました。

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庭は、砂地のため水が溜まらず、枯山水の景色となっています。池に見立てた石の手水があります。現状背後の木々が伸び放題のようで、庭として景色は今一つのように思われます。保存対象となっているところの庭木の手入れ(剪定)をいかにしていくかは、それぞれ守るべき観点があって難しいところがあると思います。

中川先生、一押しの古民家でいろいろ興味深いところがありましたが、去年見た兵庫県たつの市の永富家のほうが、使っている木材などが他でみたことないような、大きな材だったりし立派さは上のように思えました。永富家は、いまだ当主さんが茶会などで使っていて、その設えとかもセンス良くやられていたので、品よくみえるところがあらのでしょう。

 

能登 輪島

このところ、輪島うるしの方々と交流があったので、お誘いのままに工房見学に。

輪島の街は、どう行っても長い山道を越えてのアプローチとなり、集落の孤立感を実感します。輪島のうるしやさん達は、ヴィトンやシャネルなどフランスの一流ブランドから製作依頼を受けるなど、地理的な隔たりを超えて活躍しています。

昔ながらの民家や蔵の中を仕事場として、世界のニーズに応えています。

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住宅も昔のままの板張りが多く残ります。以前はほぼ100%、地元大工さんの作る家だったそうですが、今は2割くらいがハウスメーカーになったと聞きました。

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外壁の板は、能登ヒノキといわれる地元独自の木材とのことです。能登を南限とするアスナロの1種(うるしの基材もアスナロが多いので)ではないかと思いますが、耐腐食性が高く、多くの家で使われでいます。

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輪島の近辺は切り立った断崖の海岸が多く、小さい集落が孤立しています。家々は黒い瓦葺きに輪島同様の板張りが多く、統一された美しさがあります。

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間垣の集落。近年は景観保全のため、市が補助しているとのことでした。集落を結ぶ海沿いの道は急で細い山道しかなく、孤立感十分です。

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