八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

本日、地鎮祭

年配のお二人のため家 。地鎮祭が慎ましく行われました。このところ高温で心配していましたが今日は曇りがちで、日和的には恵まれました。

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二人が暮らすために必要なものだけの構成で、1LDKですが、少しゆとりが感じれるように計画しています。新鮮な生活となるようにと提案したことの多くを受け入れていただいた責任重大な物件です。

祭事のあとのお話で施工の丁寧さにも期待しているとも、おっしゃられて益々責任重大です。期待を上回る良い家にしたいです。

阪田誠造さん納骨式

前職の坂倉建築研究所で当時所長を務められた阪田誠造さんの納骨式に参列しました。

一周忌にあたる7月15日に四谷の聖イグナチオ教会地下の納骨堂内に納められました。この建物は阪田さんが設計コンペを通して設計し、1999年に竣工しました。(私もコンペ時はドローイングの一部を手伝いました)

納骨式の神父様は、建設時の主要メンバーをされていた方で、建設前にドイツの様々な聖堂を見に行かれたことなど、阪田さんと新しい教会を作っていったご苦労をお話いただきました。

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竣工当時に比べると、ろうそくの煤など、使ったことによる汚れがついて、より教会らしい雰囲気がでてきたように思います。ヨーロッパでも近代以降の教会は、比較的質素な材料で、装飾的なものの少なく、そのような教会に近いものを感じました。

時間の経過が建物に重みや人々の愛着を作っていくのでしょう。

建設時、阪田さんはここに納骨されることは、お考えではなかったように思いますが(容易には納骨は許されないと聞いています)、

聖堂がこの先200年くらい経ったときに、設計者もここに眠っているというのは、建築家としてはうらやましい栄誉だと思います(聖堂としても値打ちが上がるかと)。

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三重木造塾 中川武先生

今年度 2回目の三重木造塾の講義が三重大学レイモンドホールにて行われました。

冷房設備のない(建築的意義は大いにあるのですが)レイモンドホールで、気温30度を超える中、「日本の住まいの歴史」と題した熱意あふれる講義でした。

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講師は明治村第6代館長・早稲田大学名誉教授の中川武先生です。先生には大学在籍中に日本建築史を教えていただいています。

建築史研究またアジア各国を周られるなかで見出された「不羈の構え」の大切さについて熱の入った講義です。

「不羈の構え」とは経済的・政治的な事象にとらわれくことなく、透明感・流動感をもって丹精込めて作られるものを指し、発展した社会から失われつつあるものとのことです。また丹精込めた造りの細やかさだけでなく、時間に関わる感性も見過ごされつつあることを指摘されていました。

住宅の基は、平安時代寝殿造りにある屋根のみで境界のない自由で浮遊感のある空間で、理想の住宅はそこにあるとの説は、最新の建築でも目指している空間思想に通じるように思います。

住宅の単体のことだけでなく、近年カンボジアに進出したイオンモールを例に挙げて、本来の都市の、個々の小さい要素がぶつかりあって成立する都市の形態・魅力、そこから特徴つけられる伝統文化が失われることを危惧されていました。

講義の後半には、体感しておくべき建物として、茶室・民家・庭・寺社などをご紹介いただきました。これまで訪れたことのあるところもありますが、先生のお話を踏まえ、新たな見方ができそうです。

学生のころ、先生の講義は難しい(普段のとても心易くお話しただいていたのでなお更)印象だったのですが、今回のお話しはとてもわかりやすく、共感する部分が多かったので、今の私の見識は大学のころの教えに基づいているいるところが大きいと感じました。

古民家再生 見学

多気町の山路工務店さんのご案内で多気町上出江の古民家再生事例を見学してきました。

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設備・断熱をいれた改装費用は新築の60-70%くらいだそうで、低コストで再生した印象です。施主さんは設計士さんで、役場のあっせんで町内の物件の中から、この家を選んで購入されたそうです。程度の良いものだったので、改修費用が抑えられたのでしょう。施工の方に伺うと水回りのところは土台を取り換えたようですが、屋根は触らず、柱の継などもなかったとのことです。

この地区には同様な形態の古民家の空き家が数件ありました。役場の方も見に来られていて、このような物件が増えて、住民が増えるように力をいれているとおっしゃっていました。

この日は、古民家保存会の耐震診断の実演もありました。その方法は、外部地面と建物内に振動計を設置し、双方の揺れを計測し、建物の周期を見ることで耐震能力を推測するものです。この古民家は見えない部分で金物補強などを施し、相当の地震では倒壊しないと判定できているそうです(この診断とは別に耐震設計をしているそうですが)。

新築で古民家のような開放的な家をつくる法的認定はできていませんが、改修の場合の安心感には効果的な診断となっています。

池原義郎先生を偲ぶ会

5月20日に逝去された早稲田大学名誉教授 池原義郎先生を偲ぶ会が大隈記念講堂で行われました。

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先生と身近で接しさせていただいたのは、わずか3年間でしたが、自らの作品に対する思いの説明や、当時先生を訪ねられていた多くの著名な建築家との会話、国内外の著名な建物に対して感じることのお話、学生の作品に対する厳しい評価などを通し、建築に関わる上で必要な感性と理念の根幹が作られたように感じています。

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会の始まる前に、比較的最近に収録されたインタビュー映像が流されました。「建築はただ機能的に作り上げるだけではダメで、人間性がそこに加わらなければいけない」とお話されていたのは、最新の技術や素材にとても興味を持ちながら、細部の作りに熟慮して詩的と評価される作品をつくられていた基本スタンスなのでしょう。また作風はずいぶん異なると思える先生の師、今井謙次先生の大切にされたいたところです。

 

この数年で先生と親しい交流のあった同世代の建築家、高橋テイ一さん、宮本忠長さん、阪田誠造さんが逝かれました。直接お話を伺う機会があった方々で端正、厳格に作り上げていく建築の凄さを教えていただきました。この後の若い人たちには、そんな機会がなく、違った建築の世界になっていくのでしょう。

住宅見学

横浜市たちばな台にできた住宅を見せていただきました。設計は井上洋介さんです。

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鉄筋コンクリート造2階建て、延べ床137m2です。南西に開けた高台の縁に建つ立地です。1階に寝室、2階はLDKとテラスのみで広々した空間になっています。

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擁壁一杯にテラスが張り出し、施工は大変ですが、気持ちは良いです。

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コンクリートは型枠の板を隙間を開けて設置したことでできる出目地の表情です。素材表現に熱心な井上さんらしい壁面です。

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人造大理石研ぎ出しの浴室もきれいです。目地がないのですっきり、且つ、目地汚れもありません。但し割れがでる可能性があるので、動きの少ないコンクリート造でないとやりにくい仕上げです。

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片引きの窓ですっきり収まっています。

沖縄の建物

社員慰安旅行で沖縄に。沖縄の伝統的住宅の特徴を備えた中村家住宅(北中城村)。

昭和31年に琉球政府から、昭和47年に国の重要文化財に指定されています。この地域の庄屋を務める家ですが、本土の豪商・豪農の家に比べるとこじんまりした感じです。規模は小さいですが、造りはキチンしていますし、防風のための石垣、石貼りの庭は本土とは違って、費用の掛かっている要素です。

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沖縄住戸の代表的な特徴のヒンプン。ヒンプンに向かって右が男子・客動線、左が台所に繫る女子の動線だそうです。

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屋根は赤瓦、漆喰固めです。土を厚く載せたような屋根なので断熱性は高そうです。重さもかなりとなるため、軒先や縁側の柱間は1間となっています。本土の一般的な建物からすると柱が気になりそうですが、天井が低いこともあってあまり気にならないです。

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垂木の間に面戸はなく、風が通りやすくなっています。漆喰で固められた屋根の母屋部分にも空気抜きが作られています。

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石貼りの庭は、大雨の水処理のためでしょうか?ミニマムな感じの石の庭、ストイックな感じもありますが、周囲にある緑で殺風景な印象はありません。

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井戸周りには植栽もあります。

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部屋の外が塀に囲まれた感じは、インドネシアのバリなどにみられる住宅形式に似ています。風通し確保とプライバシー保護に有効です。

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防風木であるフクギ。黄緑色・厚めで丸い葉型、密度感のある樹形は、ちょっとかわいい感じです。

 

名護市庁舎(1981年竣工。象設計集団)

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象設計集団の代表作。見た目は昔風(ある意味、アート的な)建物ですが自然の風を取り込む設備計画、構造をがんばったりした当時の最先端建物といえます。

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高い階高。ダブルグリットの詰まったスパンのランマ部分の穴が建物を貫く風洞

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室内の高い天井に通る風洞(コンクリートダクト)。写真で黒く見える四角い穴から風が入る。

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15mほどのスパンのスロープ。受け梁はなく、手摺壁を梁とする片持ちスラブでできてます(他ではなかなか見られません)。

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たぶん現場打ちのプレキャスト・コンクリートルーバー。

早稲田大学吉阪先生の弟子たちを中心とした設計チームですが、コルビジェ的な意匠・形態は見られず、地域性を特化反映するスタンスが一番の特徴です。

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本土のほかの作品も、経年で緑が覆い、魅力的な環境を作っています。時間を経たものが新しいものに勝る好例です。

www.hattake.co.jp