八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

福島の復興建物

 

日本建築家協会の三重県メンバーの方々と福島県内の震災復興に関わる建物の視察に行ってきました

菜根こども園 郡山市

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原発避難地区から移ってきた施設、0歳~6歳までを預かる。基本1階建て(一部2階)の木造の建物です。玄関はなく深い軒下空間から各部屋に入る構成です。内部にも木の要素を現しています。耐火性能を燃え代設計でクリアしているので木材サイズが通常より太くなっています。使用材は構造材、床、壁すべて杉材です。かなり立派な材です。

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内部は低い家具で区切られているのみで、空間の広がりがあります。音が通るため、子供たちが集中できないのではと心配されていましたが、聞き分けようとする力が発揮され、むしろ良い効果があったとのことです。施設のあり方に対する思考が入園の判断要素になるそうで施設作りが重視されるようです。平屋で木製サッシュなど木を多く使ったこの施設はコストは木造注文住宅の1.5倍くらい。

建物が建つ前の風景。

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この建物ができた今は上質な住宅地という印象でした。良い建物が周辺の価値も上げていると感じました。

福島県買取型復興公営住宅いわき勿来団地・戸建て いわき市

設計と施工会社が一体となって建設後、県が買い取り公営賃貸住宅とする事業コンペによって建てられた戸建て住宅群。1つの開発地を数社に分けて作られています。

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設計の辺見美津男設計室さんのブロックは外壁そとん壁(シラス土の左官壁)に板張り、サッシュjは樹脂サッシ、雨どいはガルバニウム製で外構も感じの良いベンチや小道が整備され、一般の住宅よりずっと良い家。

 

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工事費も選定の1要素だろうと思われるのでこの仕様でコンペを勝ち取るのは結構たいへんと推測されます。平屋60m2、2階建て80m2。隣のブロックは一般的なハウスメーカーの家程度で、建設コストの違いは明らか、家賃に差があるとは思えないので、抽選で決まるであろう住民にも不公平感があるように思えます。戸建て住宅の北側には、UR(住宅公団)の鉄筋コンクリート造の4階建ての集合住宅(全国的にドコにでもある感じ)、視察メンバーからは集合住宅タイプを選ぶ入居者はなにを由としているのかと疑問。集合住宅のほうが家賃が安いということなのでしょうか?分譲の場合は価格差が十分あるので、1開発地に戸建てと集合住宅タイプという構成は多いのですが、公営賃貸となると家賃差があまり無いように思えるので、この点でもくじ運の不公平感があるのではと思います。

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福島県買取型復興公営住宅いわき平赤井団地・集合住宅 いわき市

勿来と同じ方式の公営住宅。こちらは鉄骨造4階建ての同種の建物形態です。

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ここの特徴はWood ALC(木よる低炭素社会達成)による外壁です。厚さ120mmの木材を並べたパネルで、耐力壁・防火性能を確保しています。二酸化炭素を吸収する木の利用を促進することと外観が自然素材の表情になるのがメリットです。鉄の部分も亜鉛メッキ材を使っているので素材感のある良い印象です。WALC部分に雨が掛かるのを避けるように軒を出しあるのも、デザイン的に合っているように思います。工期短縮が求められていたそうで、設計時から工期が短くなる材料、工法を選択をしてきたそうです。部分的に一般的でない材料選択されているところがありました。

いわき市高久第十応急仮設住宅・戸建て 板倉の家

外国産の木材に圧されて、需要の伸びない国産杉材を目一杯つかった板倉つくりの仮設住宅

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厚さ40mmの板を柱の間の落としこんで造る板倉つくり、耐力壁としても、防火構造の壁としても認定されて、現法規をクリアしています。耐力を持った外壁を構成する板厚で断熱を確保しているので、仮設から本設建物へ移行する解体組み立て直しの再利用率の向上に役立っています。再利用率は60%以上とのことです。木をふんだんに使っているので仮設時のコストは掛かりますが、再利用分の軽減が可能で、住む人が豊かに思えるメリットがあります。

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訪れたときはちょうど解体の途中で建物構成がすべて見れました。屋根の断熱は藁が使われているのも見れました。6年くらいは使われた家ですが内部の木はきれいなままでした。

辺見美津男設計室 作楽  白河市

今回、視察をガイドしていただいた日建築家協会福島地域会の辺見美津男さんの設計室にて、復興事業に関わっていった経緯や災害前にできることをお話いただきました。

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この設計室は明治時代の米蔵を改造したもので、時間を掛けたものの魅力にあふれる建物です。内外素焼きの瓦を貼りこんだなまこ壁を使った珍しい蔵です。解体を考えていた所有者に改造利用をお願いしたそうで軒高4mを階高2mの2階を作っています。内部に柱、梁を追加したことで耐震性も増したそうです。東日本震災では一部壁が崩れたそうですが、根気いる復旧を経て保存建物に指定されています。設計相談の方たちにも好印象の建物なので、設計の受注にも効果の高いそうです。

 

 

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