八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

三河のお寺

三河にある建築家のつくった比較的新しい2つのお寺

西光寺(岡崎市 2005年竣工)

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設計は吉村靖孝さんです。オランダの著名な設計事務所で働いた経験をお持ちで注目されている若手の建築家です。

このお寺は帰国後、間もない頃に作られた初期建物です。錆を意匠的につかうコールテン鋼で箱を積み上げたような外観で、書籍に掲載された印象は突飛な建物すぎる感じでした。

厚い鉄板は全溶接して完全防水と構造体として使われてます。内部は階段状外皮のみで柱はありません。屋根と天井の厚さ、壁の厚さもほんのわずかで、薄い皮膜だけで建物ができているのが感じられます。

写真では、周辺との違和感があるのではと考えていましたが、実際の印象はあまり違和感は感じませんでした。境内のほかの建物との関係がきちんと整理されていることと樹木の存在で近隣には突出感がありません。また建物自体もコールテン鋼などの素材感があるので、お寺としての佇まいも、許容できる感がありました。

内部は同じ形状の窓ながらちりばめられた配置と断熱材としても役立っている内装の木毛セメント板の壁・天井と開口を隠すパネルが少し不安定な納まりになっていることなどは、お寺としては受け入れられにくいように思えました。

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全体としては、素材の選択、薄い構造体でつくる軽やかな空間は好感がもてます。

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コールテン鋼の枠にサッシュがきちんと組み込まれています。開く窓もスマートに収まっていて、全体の雰囲気を害していません。写真中央の入り口はステンレスの鏡面仕上、枠の存在を見せずに開口の印象を与えられ、コールテン鋼以外の要素を消すセンスある選択。

正願寺(豊川市 2014年竣工)

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設計はアーキテクト5の堀越英嗣さんです。私は学生の頃、設立したばかりのアーキテクト5でアルバイトしていたので、設計スタイルはよく知っています。

きちんとした設計で実績がある方なので、先の西光寺に比べると各段に落ち着いた印象の建物です。使用している材料は特別高価なものはありませんが、上質感がありました。

古い門もうまく生かされています。

設備的にも配慮され、太陽熱を利用した暖房設備が目立たないように設置させています(一般の方だと気が付かないと思います)。屋根の最上部にあるガラスが太陽熱を取り込み設備です(天窓ではありません)。

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中庭を囲んだ会館機能が本堂に連続しています。こちらも落ち着いた雰囲気です。

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本堂内部。鉄骨造のR状の構造体に木梁の意匠が掛けられています。

壁要素はすべて障子に引き戸を組み込んで採光調整のできる建具となっています。

(外部から見ると単なる紙貼り単純な壁に見えます)

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外壁は塗装された窯業系の板に木板が貼られたものですが、全体としての印象は木貼りの建物のようなグレード感があります。

細部にわたり、きちんと設計されることを長年続けてこられた方の流石な建物です。

 

おまけで立ち寄った愛知産業大学 言語・情報共有センター(岡崎市・2014年竣工)

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設計はStudio Velocityさん、若手い方々です。

この建物がないときはどうなっていたのか疑問な立地で、現状この建物で周辺建物をまとめている印象です。用途はバス停とゼミ・ミーティングスペースでわずかな室内面積しかありません。

全体に広がったフラットな屋根が場所の特別感・周辺の建物をつなぐイメージを与えています。傾斜地にあるため、アプローチ道路のある下側からは階段上に各室が一見できて、様々な活動が同時に見え、建築の楽しさが感じられます。

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室内と芝生のみを一枚の面の屋根で覆う単純な構成が、いまどきのざっくりした建物感覚なのでしょう。私の世代なら外部にも活動の場として要素を足すなどして、建物の構成要素を複雑にしていると思います。屋根の作りも鉄骨梁にパイフ柱が取りついているものそのままな形で、緩い印象が良い感じで現れています。

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屋根断熱はあるようだし、壁もそれぞれ違った石が貼ってあって、素材感もあって建築としてきちんとしてます。

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