大多喜村役場 設計:今井兼次先生
1959年竣工の庁舎建築。大学1年生のころ製図の授業で図面トレースした思い出深い建物です。それ以来何度か訪れています。個性的なスタイルを主張することも変わった建築形態を試みるわけでもなく、清々しく気持ちの良い空間をただ提供しているなかに、質を高める要素を盛り込んだ良いお手本の建物です。豊かではない時代にセンス良く装飾を施し庁舎としての設えもきちんとしています。
入口のキャノピーは入る側の中心の柱をなくし、受け入れるイメージをっ強めています。そのため梁が蛇行した形になっています。このキャノピーの屋根自体も構造上薄くできる側の厚みを薄くし、より軽やかに見せるなど、細やかな作りをしています。
老朽化もあり、隣に新しい庁舎がつくられました。こちらは千葉学氏の設計。さすが千葉さんの建物できれいにできています。旧庁舎を配慮して計画もされていてよい関係で建っています。旧庁舎が残っているのは、愛されている証でしょう。
塩田病院 設計:池原義郎先生
1983年竣工の病院。池原先生の作品はとても思いがこもっていて古くなっても、見ごたえがあります。先生の作品に1つの特徴である壁の積層による構成の建物です。格子の壁の中がすべて同じもので埋まっていない感じなのが、建物内変化の楽しさを想像させます。一生懸命つくったものは、当初想定した機能面ではその価値はなくなるが、なにか変わらぬ価値が残ると思えます。
病院に近接して1977年竣工の鉄筋コンクリート造の小住宅も未だに残っています。さほど広くない敷地に渦巻状に動線を設定して奥深い空間体験をもたらす家です。進むにつれて展開する空間ボリュームの変化・コンクリート壁の厚みの変化による空間の質を建築家のストーリーに合わせて作りこんでいく建物は、最近は少なくなったように思います。
建築学会賞だった白浜中学校がずいぶん前に、バイパス道路のために建て替えられてしまったのは、とても残念です。中学校の建つドラマチックな敷地条件を先生のストーリーで活かしきった素晴らしい建物でした。