今回見てきた芸術祭の作品
「清津倉庫美術館」:廃校となった小学校を利用した美術館
4人の作家の作品を体育館に展示。建物の改装は山本想太郎さんが行っています。
作品は木・鉄の素材感を使った4点、展示空間はシンプルなコンクリートの壁の作品の背景としてつくり、作品の素材感と対峙するあり方が過不足なくスマートな印象です。壁の背面には空調機器も設置していて、機能面も改善しています。
ミニマムな操作で、小学校の体育館のイメージは払しょくされ、緊張感のある展示空間になって素敵です。
体育館の奥のプールが休憩スペースに設えてあります。川沿いのレトロなプールが田舎ののどかさを感じさせます。川側に小さなコンクリートフレームがつくってあり、川べりを眺めてくつろぐ、施設となっています。
鋼製セル式堰堤・「土石流の記憶」
2011年東日本大震災の翌日に起きた大規模余震によって、山の一部が崩落し国道を覆うほどの土石流が発生しました。その後も不安定な斜面が残っているため、この堰堤がつくられました。通常の堰堤は土砂を積み上げコンクリートで固めるタイプですが、ここでは鉄でできた樽状の囲いに現地の土砂を入れ込んだセル式を採用しています。コンクリート製に比べ工期も短く、工費も15億が9億円でできるなどのメリットがあるそうです。鉄の厚さは9.5mmで錆による腐食に対応する期間は計算上50年で、海から遠いこの地であれば、70年以上、維持できると思われ、コンクリート製に劣らないとのことです。弱点は鉄の厚みが薄いので大きな岩がぶつかると裂けてしまう恐れがあることです。幸いこの山には大きな岩が含まれないので採用されているのです。
堰堤の形状、大きさ、錆びた鉄の質感と周りの自然との対比が十分アートなのですが、
この作品のメインは土石流の広がりを示す黄色いポールなのです。黄色のポールは堰堤に迫力に負けてます。色合い的には良いアクセントになっていますが。
堰堤の仕組みついては新潟県の土木課の方が説明されていました。アート的に自分たちの仕事を説明するのがとてもうれしそうでした。
黄色のポールは細めの丸太で少し温かみが感じられます。写真右上の暗く影になっているところが崩落部、木がなく土が見えていています。再度崩落しても堰堤が受け止めるそうです。堰埋まっていて地上には16m立ち上がっています。
堰堤をつくる鉄のカットサンプル、実際は長さ4mほど。端部が噛み合う形になっています。
「最後の教室」:クリスチャン・ボルダンスキー+ジャン・カル
廃校となった小学校を舞台に「生と死」の問題を語りかける作品です。作者は世界文化賞受賞者だけあってかなり強い印象です。室内はかなり暗くホラー映画の世界です。ブルーアイのフランス人と黒目の日本人では、この暗さの感覚には大きな差があると思われます。最初に入る体育館は、入室直後は全く見えなく進めなほどです。
床は全面に藁が敷き詰められていて、ベンチがたくさん置いてあります。ベンチを蹴飛ばしそうで踏み出せません。それぞれのベンチには暑さ防止で扇風機が首を振っていてかなりシュールな印象です。
実際はもっと暗いです。デジカメは私の目より感度がよい。
建物はかなり傷んだ校舎です。味わい深いですが、一般的には、学校としては使わせてもらいないです。作品のため窓は中で目張りされ光は通りません。
「棚田」:イリヤ&エミリア・カバコフ
棚田にテキストと彫刻を配した作品
「花咲ける妻有」;草間弥生
草間ファンの方?
カバコフさんも草間さんも世界文化賞受賞だそうです。表現が強く印象に残ります。
上記2つは松代の起点施設 まつだい「農舞台」に隣接して配置されています。
「農舞台」は世界的に有名なオランダの設計事務所MVRDVの設計です。日本の耐震設計などのために、本国ほど明確な立体構成にはなっていませんが、日本人の設計とは違った面白さがあります。
一見、単純な建物のようにも見えますが、内部の色分け、壁の操作で外観とは違った多彩な空間が内部にはあります。
黒い廊下とそこから抜け出たような各施設。緑のミュージアムショップ・空をイメージする壁のカフェ。
トイレはオレンジ。写真のブース扉の一つが出口、入るときは狭い廊下の扉を開けるように入ってくるので帰るときにびっくりします。混んでるときは、誰かが入ってきてくれるので良いですが、そうでないと端から開けてみることになります。(真ん中の扉が出入り口です)
少しの工夫で予想しないような面白いことができることを学ぶ良い建物だと思います。
作品ではないけれど、ちょっとアートな感じの橋を見かけました。
渡る板の端部はバラバラです。横から見ると非常に薄く見えます。
この「はし」は渡りにくい橋です。
木・鉄・コンクリートなど素材感の力強さ、美しさを実感できた芸術祭見学でした。