八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

建築文化講演会2020

日本建築家協会三重地域会が主催する講演会。今回は若手で活躍が目覚しい

大西麻貴+百田有希さんが講師でテーマは「人を愛する建築」です。百田さんは体調不良のため、大西さんのみでの講演となりました。自作を紹介しつつ、大きくは建築に対する思考、個々の設計の経緯や設計意図などを説明いただきました。

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出来上がってくる建物は、統制の取れれた形のものはなくて、私たち世代のつくる建築とは違ったものです。とにかく楽しさが感じられ興味がありました。どのようなことを考えて、こうなってくるかに興味がありました。

大切にしていることは、どこにつくるか(立地の把握)、誰のための建物か(ニーズの把握)を考慮し、クライアントとよく話し合いの要望を自分なりの解決案を提示していくという過程は、私たち世代と同じくするものです。違いが出るのは、社会環境の変化で建物に使われる材料の質と、建築に対するイメージの明るさと思います。実に楽しそうに設計されているようでした。

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若手の建築家ということで、今回特に高校生へ聴講勧誘に力をいれました。その甲斐あって、20名以上の高校生が来てくれました。会の最後には、高校生から建築に関わっている動機を聞く質疑もあり、大西さんが「つくった建物で人の人生に関われる、変えられたりもする。建築をつくることは物凄くたいへんな労力を使うが、建築は面白い。だから続けていく。」とお答えになったのは、みんなの励みになる言葉でした。

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講演終了後、高校生に囲まれる大西さん。

家具の納品検査

昨年から引き続き関わっている調布市武者小路実篤記念館ミュージアムグッズコーナーリニューアル。今年は2つの家具の製作です。

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昨年はグッズ陳列のための家具でしたが、今回は展示機能を補うものとボランティア活動のためのものとなります。同じスペースに配置されるので、統一した印象となるよう使用材、寸法どりを同じものとなっています。

展示説明台。展示ポスターの掲示、関連シートの陳列、メモボードの置き台などを1つの家具に集約しました。ポスター掲示部分はマグネット対応のクロス張りです。トルクがかかるヒンジで掲示板の向きを固定できるようにしています。

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ボランティアカウンター。ボランティア活動の受付台となるものです。前回の陳列カウンターと見た目を合わせていますが、ボランティアのグッズのサイズに合わせて収納を調整しています。

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今回の納品で5つの家具がホールに並びました。竣工当初のスッキリした印象に近づくように、できるだけコンパクトに求められる機能をいれましたが、家具の数が多いので当初のイメージに匹敵とまでは至ってないように感じます。今後も引き続き改善を検討していきたいと思います。

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実篤記念館は水のあるところに暮らしたいと決めたツイの住まい実篤旧邸に隣接しています。記念館自体もしっかり設計された良い建物ですが、旧邸やその庭も見所があります。

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実篤旧邸。わずかな傾斜地に建つモダンな和風住宅

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下の池。亀や鯉がいます。実篤先生が船に乗っている写真も残っています。

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上の池。旧邸のテラスの前にあって下の池より小さい。湧き水が直接入るので水温が低いので、ニジマスを飼っています

旧上野市庁舎 見学会

伊賀市上野城下に立地する旧上野市庁舎の見学会に参加しました。

旧上野市庁舎は1964年竣工。設計は前に所属していた坂倉建築研究所で、三重県在住唯一の元所員として建物の動向を見続けていく役割を担っています。

建物は市の文化財として登録されたそうで、解体されることは先ずはなくなったとのこと。しかし再生利用に向けての作業は、切り出せてなく、保存活用を推し進めていた方々は未だに働きかけに頑張っています。

同じ坂倉作品では、今春に鎌倉の神奈川県立近代美術館がリニューアルオープン、岐阜羽島羽島市庁舎は保存をして補完施設を周辺に建てることが決まったと再生利用の雰囲気が高まっています。

今回もドコモモ委員の鹿児島大学 鰺坂先生が説明役となっています。個々のパーツの見所をタブレットを使って昔の姿や関連画像を交えての説明は、建築関係ではない人たちにも分かりやすく、より建築への理解を深められるものでした。先に坂倉設計の日仏会館のイベント時に作られたパリ博日本館のウォークスルー動画も説明の中で見せていただき、コルビジェ→坂倉準三の設計思想がどれほど上野市庁舎の設計に反映されているかもより理解しやすいものでした。

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鰺坂先生の案内風景。今では製作されることの少ない大きなスチールサッシの貴重さ、十分機能することの説明。

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 タイルの張り上げも現在の現場では滅多にみられません。f:id:hatt88:20191208120153j:plain

市役所現役だった頃は入れない市長室。城下が一望できる。

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執務室の伝言。残置されてます。

 

環境セミナー

構造設計や設備設計を力強くサポートしてくれる世界有数のコンサルタント、アラップ・ジャパンの清野新さんの講義です。アラップ事務所は世界に15000人が所属し、トップレベル建築家と協働している、憧れの事務所といえます。

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・Design with Climate  計画地の太陽高度を反映させた計画

・Maximum the Site potetial  周辺の風・水などの利用

・Micro climate Design 微気候の把握・活用

についてそれぞれ実例を説明いただきました。設備設計が建物計画に合理的に反映され形が出来上がる魅力的なものでした。調査、シュミレーションにより、具体的なコストの算出ができ、適切なイニシャルコストで良い建物を作ることができそうです。

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講義は三重大学のレーモンドホールで行われ、特に寒かったなか、暖房設備にない建物でも環境講義は身にしみるものでした。

 

三重短大 授業協力

今年で3年目となる三重短期大学生活化学科への授業協力。日本建築家協会の社会貢献活動の一環として、住宅設計の指導(アドバイスです)をしています。

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これまで2年間の協力を顧み見て、課題の出し方を今回は変えてもらうようにお願いしました。大きく変えていただいたのは、プラン検討をこれまでの1/50の縮尺から1/100への変更です。大きい図面で検討していると描く労力に負けて、間取り検討が1回きりになってしまって不具合が解決されないままで進めてしまう感じがあったからです。

今回は、こちらのアドバイスに対し、やってみたけど上手くいかなかったと返答が返ってきて間取り検討のたいへんさと楽しさが少し感じてもらえたのではないかと思いました。一方、間取りの完成度はあがったものの、作りたい空間イメージが広がらなくなったような印象もありました。前回は先ず作りたい部屋があって、そこをメインに描き始めていく学生が多かったのかと思います。

今年担当した学生さんたちは、こちらのアドバイスを手がかりに着実に作業を進めるべく、他の人のときもしっかり見ていて、前に比べきちんと住宅を設計できるようになりたいという気持ちが強いように思えました。

真剣に建築を仕事としたい熱意が感じられ、建築の衰退が少しは救われるかと思えうれしさを感じます。 次回は1月22日、成果発表です。アドバイスの行く末が楽しみ。

伝七邸とコンビナート夜景

日本建築家協会の東海支部の役員会が四日市で行われ、愛知、岐阜、静岡で活動している建築家が「伝七邸」に集まりました。

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伝七邸見学の後、会議に。

今は寂れた感じの旧築港界隈にあるのでより立派さがきわだつのか、伝七邸への皆さんの評価は高いものでした。きちんと設えてあるので、市外の方たちは、四日市の人たちに、よく使われているところと思われたようでした。

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会議の後は潮吹き堤防を見るなど旧築港付近を散策、特別手配でそこから夜景クルーズに出発しました。多くの方がナイトクルーズということでワイングラスでのパーティに相応しいような船を期待していましたが、工場の街、四日市らしい海上保安庁の系の船です。

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クルーズにはボランティアガイドの方が同乗していただき、船や工場の見所の説明を通して、コンビナートが四日市にとってなくてはならない存在であることを教えていただきました。各工場で作られるものが広く流通して全国で使われていることがより実感をもってわかります。人知れず役立つものづくりの街としての四日市の存在が少し誇らしく感じました。夜景はバブル前からすると照明も少なくなったとの説明があったように、以前のイメージよりは華々しさはなくなっているように思えます。

単にキレイな夜景というのではなく、産業の活力の現れである景色として、十分人を惹きつけるものだと思いました。

吉田五十八 

日本建築家協会三重地域会の会員のための講演会「吉田五十八の近代数奇屋住宅」を聴講しました。講師は三重大学の大井隆弘先生です。

生い立ちと現存する住宅、住宅を分析して作風の変化、その価値などを講義されました。

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十数件の住宅が現存し、その大半が公共的団体所有で見学が可能のようです。
前職の設計事務所に入社したての頃、ホテル内の日本料理レストランの設計をしていた頃でかなり吉田五十八作品を見入っていた記憶があります。少し前から流行っているモダン和風の要素がいっぱいあって伝統的な日本家屋ではなく、少しインターナショナルな和風建築を目論むには良い参考と思っていました。今回の講演で、有名な胃腸薬太田胃酸の創案者が五十八の父だったことを始めて知りました。最初に事務所を開いたのも丸ビルの中だったそうでかなり裕福な育ちです。その頃の上司は東京芸大出身だったので、吉田五十八の見所をいろいろ教えていただきました。その上司は、吉田五十八の建築の繊細さ上品さは、その人の育ちの良さでできるているので、一般人が真似るとひどく安っぽいものになるから、やらないほうがよいと言っていました。

私の思うところ、建築の大道に自らの存在感を表すことを目指したのではなく、自分の良いと思うものを世間にとらわれずつくった人かと考えています。なので建築学的な研究はやりにくいと思ってました。これまで五十八の研究はあまりいなかったように思います。

 

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