八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

みえの気候風土適応住宅 勉強会

三重県内の建築設計に関わる主要3団体(建築士会・設計事務所協会・日本建築家協会)と行政からのオブザーバー参加の勉強会です。

環境配慮の政策で個人住宅にも、省エネ基準の適応を求める法律の制定が進められつつあります。この法律が運用されると昔ながらの土壁を使った家の新築が、省エネ性能数値クリアが証明しにくいため、たいへん難しくなります。国としても省エネを進めたい一方、伝統工法の消滅を危惧し緩和の方策を検討しています。伝統工法を使った住宅は基準を緩和するために、その緩和適応条項を各行政庁が地域毎に適したものとして作るように国交省は指針を出して制度化を求めています。

私としては伝統工法の存続とともに、法律で規定された画一的な省エネ対応以外で住宅を作ることの可能性を残せないかということと、三重県の気候にあった住宅とはどのようなものなのかを知ることにも関心があって、積極参加しています。

今年公示された内容では、家を建てた人に、その住宅の環境性能の説明することを設計者に義務付けることとなりました。設計者は、省エネ基準を算出し結果を書面にて提示することになります。そうすることで、国民の省エネへの関心度合いを高めることを目指しているようです。今後2年以内に実施運用となります。

勉強会では、三重県における伝統工法の調査を進めるとともに、行政基準に関わらない環境配慮の事例を調査することから、三重県独自の環境配慮住宅の基準つくりを始めようとしています。

時間がつくったもの

お世話になっている老舗のてんぷら料理店 天一の本店がビル建替に伴い7月26日をもって一時閉店となりました。昭和30年代から補修を重ねて使ってきた店舗の雰囲気を残したいとの意向に沿い、新しい店舗に古い材料を使って復元に近いことを行うこととしました。

昔の日本の木造家屋は柱はそのまま、壁は土壁を塗り重ねてキレイにしていくことが一般的だったので今回も柱など木材要素を保管して壁を新規につくる方針としています。

今日は、再利用品と廃棄品の最終確認です。復元できよう、材料にナンバリングしてあります。

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再利用するための解体・保存費用がかなり金額になるので、使ってきた時間が作った風合いの価値を理解いただかないとなかなか再利用とはいきません。

新規の材を使うのと同等あるいはそれ以上のコストが掛かってしまうので、今回の設計作業は、この解体判断から責任重大です。3年後、復元+新しい要素で、旧店舗より魅力ある店舗となるように頑張らねばいけません。

地方の建築@尾道

地方都市の街活性化の事例として、気になっていた尾道駅とOnomichi U2を見てきました。尾道は坂と水道(海辺)の街、しまなみ街道などの景観と映画の舞台として知名度があり一般的な地方都市より、かなり好条件な街といえます。かなり前に安藤忠雄さんの美術館が作られていて、近年は中村拓志さんのホテルやマウントフジアーキテクトの社員寮(こちらは観光施設ではありまんが)、世界的に注目されているインドの建築家スタジオ・ムンバイの宿泊施設など、地方としては有名建築がいくつもある特異な場所となっています。

JR尾道駅アトリエ・ワンの設計(デザイン監修)で2019年3月に開業です。列車が改札外からも良く見えるつくり・ホームと駅前広場が連続する形態は現在の駅建築には外せない要件です。

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2階に人を促すための工夫と思われる階段部の意匠。ちょっと力強すぎる感はありますが、きちんと作られています。2階は都会的なレストランと市民の活動のスペース、ホステルもあるようです。地上と視覚的なつながりも弱く、わざわざ上がって来ないといけないのでホステル利用者以外には認知度は少なそうでした。

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外観からは上記の施設があるような気配が感じられにくいので少し残念です。

 

Onomichi U2は今人気の高い谷尻誠+吉田愛さん(サポーズ デザイン オフィス)の設計で2014年に竣工です。

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水道に面して戦時中に建てられた海運倉庫「県営上屋 (うわや) 2号」を改造して物販・飲食と宿泊施設が入っています。しまなみ街道の基点として自転車推しの街づくりに関連し、世界的な自転車メーカーショップとサイクリストをターゲットとした宿泊機能で、コンセプトも明確で他の街の施設との差別化もはっきり打ち出されていて、先進事例としての全国から注目を得ています。

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サイクリスト向け宿泊施設。既存躯体の中に2層の部屋。各室の入口前まで自転車を持っていける ↓

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既存の倉庫の躯体の中に、こだわった素材をつかった空間つくりで安っぽさはありません。訪れる人たちが自分がセンスアップしたような良い気持ちになれるような雰囲気があります。地方では貴重な存在です。自分の生活感を引き上げるような施設の存在は、より豊かな生活への動機づけに大き効果があるように思えます。

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尾道は造船の町でもあります。U2の向かいには浮きドッグがありました。

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大きな建物が浮んでるようで不思議な景色です。ほぼ完成している貨物船が入ってしました。

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山が迫っている地形のため、造船所は谷筋にあります。建物が作りにくい急な勾配なので緑豊かです。その緑の山の隙間からクレーンが見える景色はジブリ作品の中ようです。

単に観光産業だけでなく、造船などの産業が見られることも魅力のある街の条件だと思います

15周年 広島

設計監理を担当した広島の超高層複合マンションの15周年イベントのお誘いを受けて、現地に行ってきました。建物は広島で東京同等のサービスを受けられる施設づくりを目指してハード・ソフト面ともに、ハイグレードに設定しました。住居は12階以上の海の見える高層階、中層にオフィス、低層部は人間ドッグを想定したクリニック、25mプールのあるフィットネスクラブと全国的に知名度のある飲食店が配されています。

行政折衝のための6ヶ月の現地常駐設計とその後は4年通いで建物外装から照明器具のデザイン、クリニックやフィットネスクラブ・飲食店舗やオフィスの内装まで、ほとんどの部分の意匠設計を行った思い出一杯の建物です。

広島駅前にわずかに高いタワーマンションができる3年ほど前までは、神戸以西で最も高いビルでした。

15年経った今も、建設当時にいらしゃった方々が愛着をもって、お使い、お住まいになっています。街のにぎやかなところからは少し離れていますが、イベントは盛況で会場ではたくさんの懐かしい方々に歓迎されました。

「いまでもこの建物の価値は変わっていない」とのうれしいお話もいただきました。

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建設を請け負った五洋建設さんの中国支店もビルに入っています。現在15年目の大規模修繕進行中です。

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各飲食店がテイクアウト料理を提供しています。料理のレベルは高く、美味しいものばかり。

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公開空地の中に作ったギャラリー。市電も通る大通りに面した目立つ立地で、広島の民間アートの拠点として役立ってきています。当初のメインスポンサーが不在となってしまいましたが、NPO活動の一環として活用するなど、運営サイドの工夫と努力で常時使われる場として、存続しています。

銀座の中心にオープン

設計をさせていただいたてんぷら料理 天一 銀座三越店がオープンしました。

銀座三越 新館12階で銀座4丁目交差点が見下ろせる好立地の店舗です。

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カウンター部の壁面は大判タイル3m×1m。焼き物ならではの自然な意匠と耐汚性にもリットがありますf:id:hatt88:20190525214939j:plain

店内一律の高い天井と外壁は全面ガラス窓でスッキリ感と広がりが感じられます

既存百貨店内のため共用の大ダクト・空調機などが先にあり、この高天井と天井面の設備機器配置をきれいにまとめるのに、施工の皆さんにかなり頑張ってもらいました。f:id:hatt88:20190525214514j:plain

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テーブル席は格子戸で個室のような使い方ができます。格子戸は堅い印象にならないよう、格子ピッチ・太さを変えてモダンでライトな感じに設えました

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ファサードは中の人の賑わいを見せつつ、はっきりは個々の顔は判別できないよう、ハーフミラー効果のあるフィルムを使っています。店内からはほぼ鏡面に見えるので、外の人は気にならない効果もあります

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丁寧なお料理に相応しく、素材感の重視ときちんとした構成でちょっと和の雰囲気を感じる店舗を目指しました

上棟しました

田園調布の住宅。本日上棟です。

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小ぶりでシンプルな家なので、進行が早いです。2階室内間仕切りに使う2.2×2.5mのガラスを内装に先駆け、2階に引き上げておきます。外壁が出来るとこのサイズは搬入困難です。この先ずっと割れないことを祈ります。

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屋根の上から眺めがよいです。

旧神奈川県近代美術館 プレオープン

旧神奈川県近代美術館(1951年竣工・設計 坂倉準三)が鎌倉文華館(鶴岡ミュージアム)として再スタートします。

建築公開のための展覧会 新しい時代のはじまり とそれに合わせて坂倉建築研究所の所員向け説明会に行ってきました。正式開館は6月8日からです。

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所有が神奈川県から鶴岡八幡宮さんに変わり継続利用が決まりましたが、老朽化と耐震性の確保のための改修が2017年から行われ、ようやく完了しました。劣化と耐震性の低かった新館と付帯施設は今回なくなりました。

新館が無くなったのと護岸がキレイになったせいか、ずいぶんさっぱりした景色になった印象です。竣工当初の形に戻す方向で各所微変更(復元?)されています。

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入口は八幡宮側に変わりました。

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以前の入口。1階左側に以前のチケット売り場が残っています。
外壁は本来無塗装のセメント成型板でしたが、今回は耐候性に配慮し、白で塗装されました(素材感を大切にすることとの悩ましい選択があったようです)。ほかは元の色合いに戻したとのことで、私の知っている色合いよりも強めの色になっています。断熱性能を確保するよう断熱材を追加し、外壁は外側に出され建物はわずかに大きくなっているそうです。窓の仕様も真空層入りガラスで熱対策をしています。

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部分的に石貼りの壁に鋼板耐震壁が入れられています。左手が既存の石壁、右手奥が耐震要素を加えた新しい石材。

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あいにくの雨で軒裏にうつる水で揺らぐ光は見られせん。軒天は上階の断熱強化とより平滑さが維持できるように改装されています。

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床面は元と同じモルタル製。モルタルに亀裂が出ないよう石張りのように目地が入ってます。中庭部分は俊工時の玉石敷きと車椅子対応を合わせて、玉石洗い出し仕上げとなってます。

竣工時の姿を守ることを重視した劣化・耐震対応ですが、かなりの部分が新しいもの(基本同じ素材)に置き換わったため、長い時間を経たものがなくなったことがなにか物足りない感じがしました。この時代の建物に使われている建材が当時の工業製品であまり耐久性がないものが多いので、いたし方ないように思いますが、使っている石や木・鉄などの素材の減りなど新しいものには無いものが残る近代以前の建物への愛着が感じやすいのと、大きく違いがあるように感じました。細部的にはそんな感じはありますが、時代を超えた建築計画の魅力、建物とともに作ってきた文化活動が存続することはよかったと思います。

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