仲良くしている若い設計士さんが、昨年一番の注目作と言っていたので、新潟県十日町市の文化交流センターなどが入る「分ジロウ・十ジロウ」を見てきました。設計は青森県立美術館や新潟県の潟博物館、ルイヴィトンを設計で著名な建築家 青木淳さんです。青木さんは独立当初から(たぶん磯崎事務所に在籍のころから)内部と外部が交錯した建物をつくり続け、その構成の空間づくりにおいては日本一と思います。今回見に行った建物は既存改修なので、内外の交錯する動線はつくりにくかったと思いますが、雪国の特徴である雁木も活かして、車道・雁木・吹抜外部スペース(吹抜で3層目が室内)・室内が全開口の建具で一体となりえるグラデーション的な内外のつながりを持っています。
派手な空間はありませんが、よく公共建物で使われる既成の建築パーツは使わず、センスの良さを感じる独自の雰囲気を作っています。こういった作りは手間が掛かりますが、設計者や施工者の労力が感じられ、空間の楽しさも使う人に訴えてくるように思います。建物としては地味ながら、使う人に少し新鮮で、少し幸せな気持ちにさせる地方の建物の良い見本のように思えました。
十ジロウ 1階はギャラリー、2階は貸ミーティングスペース、3階は創作スペース
雁木内側の吹抜外部スペース
ギャラリー内部、明るいところが道路。
事務室もオープンな感じで身近な施設感があります
鉄のパイプと板を使った手摺
2階の貸ミーティングスペース。上部格子天井に木製柱を固定する仕組みで多様な間仕切りに対応。
ぼんやりと光の色が見えます
3階の創作スペース。陶芸などできるようです。廊下上部にダクトがまとめられ建具上を通ってます。ルイス・カーン(アメリカを代表する建築家)の建物も同じようなことします。
こちらは分ジロウ。交流センターやシルバー人材派遣の事務所がはいってます。
十ジロウも同じようなベージュの外壁と白い内部。ベージュは本来ちょっと古臭い色使いですが、ここはそんな印象は薄く、やわらかくちょっとおしゃれな感じ。
道路側から
内部から。建具を開けると大きくつながります。
横にある管理・事務スペース。同じように一体化しそうなつくり。掲示板などで管理している人の様子は微妙に隠れてます。
2階にある会議室。都会的なセンスを感じるカーテンでくるまれています。入り口側にも回るので視線も柔らかく遮り、個室感を出せます。
裏階段もきちんとしてます。
この建物の大きな特徴の一つは、コンペによって選ばれた設計者と市民が話し合って施設をつくっていくことにあります。コンペの審査員に有名なコミュニティーデザイナーの山崎亮さんなど、地域を活性化で活躍するメンバーに委託したことも効果的だったようです。青木事務所は設計開始段階に現地に分室をつくり、所員を常駐させ設計を進めたそうです。分室には地元の多ような方々が出入りし、地元の実情などを設計者が実感して施設にアイデアを盛り込んでいったようです。
良く知った人たちの施設と思えば、設計者がいい加減なこともできなくなるでしょうし、設計者が一生懸命考えるところを感じた市民は、これまで経験したことないことも、許容しやすいと思います。その成果が、ちょっと危うかったり、コストが多少かかっても、地元独自の魅力ある建物づくりにつながったように思えます。