八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

第1回「みえ歴史的町並みネットワーク・ゼミ」

第1回目の「みえ歴史的町並みネットワーク・ゼミ」が催されました。

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東日本大震災の後、起こり得る南海トラフ地震などの震災に対する備え、復興のための事前準備を研究する会として、有志で2年ほど活動してきたのを、今回から、建築士会・日本建築家協会・行政・市民活動団体など一同に集まる、オール三重の会に広げた第1回目の会です。

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前半はこれまで活動報告と静岡県での同様活動を進めている塩見寛氏(静岡県ヘリテージセンターSHECセンター長)の静岡での活動説明でした。

静岡県内の歴史的町並みの特異性の説明を通し、一般の人たちへの地域の歴史的意味に関心をもたせることや町並みを維持していくための各団体の協定・行政との連携の現状をお話いただきました。

後半は「町並み保全と地元主体のまちづくり」と「空き家対策と民家の活用」と題する2つの分科会が行われました。

私の参加した「地元主体のまちづくり」は、白子・関・二見・一身田・松阪・亀山の町並み保全について活動者自身からの報告です。

一般に町並み保全は観光化に向けて行われますが、今回の事例の大半は日常の生活する場として整備していくものです。住民に自らの町の価値を認識させることで、永く定住しコミュニティーを維持させていくことが目的です。

これらの町は観光地化された町並みと違い、訪れた人にもこんな町に住みたいと感じさせるのではと思います。

今回のゼミは、防災的な内容は少なかったですが、県内さまざまなところで多く方が活動していることを知る会でした。

 

トラフ展

TOTOのギャラリーで行われている、プロダクトデザイン~建築設計のトラフさんの展覧会。

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これまでの仕事を紹介する展覧会ですが、ジオラマ的に紹介している展示物そのものが楽しそうで、個々のプロジェクトの印象が薄いほどです。別室映像展示もそのジオラマ展示の中に入った様子を写したもので、かなりの熱意を入れたことがわかります。

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これまでの作品のなかをNゲージの丸太列車が走ります

キレイな形を見せることより、物のなりたちや、見方をかえることでの気づきを見せるデザインのやり方は、建築家のなすデザインとして、あるべき姿だと共感します。それをキレイ見せるところが優れている方たちなのでしょう。

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養生ネットのプリーツ間仕切り

汎用品をつかって、これまでにない魅力を見せることも、コスト増は回避できないので、それを許容させる昇華度合、出資者の理解と余裕がないとなかなか通らないです。

 

 

愛知県緑化センター

愛知県豊田市昭和の森の中の展示・集会施設。設計は先日行った「みんなのハワイアン」と同じ瀧光夫さん、得意分野の植物関連施設で1975年竣工、当時BCB賞(建設業連合会)、2004年には建築家協会の25年賞を受賞した正統な建物です。

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建物は自然の丘に埋め込まれた下部とその上に浮かんだ四角形のリングの構成。下部2層は土を削り出したような小叩き仕上げのコンクリート造で周りの地盤に各層で接しています。

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上部のリングは鉄骨造で全面ガラスでコントラストが明確です。リングで囲まれた空間は屋内化された植物園となっていて(雨風の当たらないところで育てるのは結構難しいと思いますが)内部外部の植物が視覚的に混在して、建物も内外が一体化していて、ほかでは体験できない空間です。

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ガラス屋根の内部空間。アメリカの建築家ケビンローチのフォード財団ビルやディアカンパニーのような植物が身近にある建築空間に似ています。

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ラウンジや管理事務室のあるリングの全面ガラスもミラーガラスが使われているのも、ちょっとアメリカ的。

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植物を建物のいたるところに配置しています。建物防水上は問題が起きやすいところですが、思う存分やってます。管理運営している人たちの理解がないと難しと思います。

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雨水だけでなく、汚水排水も土中にあるため、植物の根との攻防はかなりあるようです。

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動線の設えも、クランクする経路や石積みとコンクリート壁の使い分けなど当時の建築家らしく、きちんとしています。

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いろんなレベルで外の地面に接していて迷路な感じもあって楽しい空間体験でした。

紅葉の映えるころで訪れるには良い時期の祝日でしたが、街の主企業の工場が稼働しているので、平日のように来園者は少ないようでした。

建物の隣には友好関係にあるオーストラリア庭園が造られています。オーストラリア産の植物は、変わった花や実、葉の色もアジアの濃い緑とは違った色合いで見た目にも興味深く、乾燥にも強いので適当に育てるには都合よさそうなので、最近注目しています。

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阪田誠造さんを偲ぶ会

建築家 阪田誠造さんを偲ぶ会に参会しました。会場は坂倉準三・前川國男吉村順三共同設計の国際文化会館でした。阪田さんは私が前職の坂倉建築研究所入所当時に所長でした。入所当初のJRセントラルタワーズの設計から、関わった仕事を通し、建築家のあり方など多くのことを教えていただきました。

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お元気にお過ごしだった今年7月に急に体調を崩されて、1日も置かず急逝されました。この会は阪田さんと交友のあった著名建築家32名の方が発起人となって開かれた公的なお別れ会です。日本代表する著名建築家の方が多く参会し、参会者は300人を超える盛大なものとなりました。会は阪田さんとお別れをしみじみ思うというよりは、阪田さんのそれぞれの仕事に関わった施主や設計メンバーが当時の思い出や近況を交わす明るい感じで集う会で、いつも和やかに人と接していた阪田さんに相応しい会でした。

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建築家 槇文彦さんのご挨拶。ほかの皆さんも阪田さんとの思い出をお話されました。

みえ木造塾 第6回

みえ木造塾第6回は構造設計の山辺豊彦さんの講義と木構造の載荷実験です。

前半の講義では、中大規模の木造建物の実例の紹介を通して、注意すべき事項のお話いただきました。

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後半は耐力壁の耐力実験です。塾生の考えた耐力壁を山辺先生の監修のもと、実験してその耐力を検証していきます。

1つめの実験体は斜めに小幅材をくぎ打ちした壁。一般に合板張りで対応する耐震改修に意匠的に見栄えの良い板材での耐力確保ができないかという試みです。写真のような装置で横から押したり、引いたりして1/150の変形時の強度を測定します。

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簡易な壁倍率算定では2.4倍と合板張りに近い強度を発揮しています。

引っ張り側の材は木が競ってしまい面外に膨らんでいます。反ってしまった木も木自体は破裂しているわけではないので、合板のようにグサグサにはがれて耐力の急激な下降はないと思われます。

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2つめは、塗り土壁となる壁の増強を従来の貫構造に準じた形としたもの。貫状に通し、交点でくぎ打ちしたものです。結果は約2.6倍。一般的な貫構造よりくぎ打ちの効果があったと思われます。より荷重をかけると耐力の増加はあまりありません。

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今回の試験体はどちらも高技能の大工さんが入念に作成しているのでその精度の良さも強度向上に貢献しているといえます。

実験は三重県林業試験場なので、公式なデータとして利用でき、実際の建物の申請にも有効となります。

西伊豆の建築

伊豆大仁にある集客施設 みんなのハワイアンを見てきました。設計は瀧光夫さんで1997年竣工です。瀧さんは植物園建築の第一人者だと思います。茨城県水戸市にある公園施設を以前見学したことがあります。土のレベルまで下げたガラス開口と植栽との関係がとても良いです。緑化関係の書籍も出せるほど緑と建物の関係や植栽のために建築詳細にも研究されています。また建築のパーツに素材感を活かした細かな設計なのですが、どこかアメリカの建物のような大らかさが感じられます(後で調べたら、アメリカ留学の経験をお持ちでした)。

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この建物は元は、造園関係の会社が洋蘭の展示施設として作ったようですが、今は御殿場の有名集客施設の所有になっているようで、施設名称も柔らかくなって、その系列の商業施設になっています。

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瀧さんの建物は、植物の展示・研究の施設のお手本となるようなもので、公共建築が持つべき品格があると思います。作る建物はそんな雰囲気のものなので安い商業施設には向かないとも思えます。

屋根の上の緑化、20年以上の実績があります。中庭につながる半屋外の空間も特徴の一つです。

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室内から身近に感じる植栽。

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スロープもよく使われる建築アイテムです。緑化もされてます。

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日本で、このように見た目シンプルなガラスの壁面は珍しいと思います。

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1階の柱部分だけ区分けするように、コンクリートの仕上げが小叩きになっています。

今、この仕上げをすることは稀ですが、20年前までよくおこなわれていました。手間をかけた素材表現がコスト的には許容されていた時代です。

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トイレのトップライト。位置的に奥まっていて暗くなりがちなトイレに自然光を入れてます。立ち上がり部分は合板素地でワイルドなつくり。ちょっとアメリカンを感じる要素。

愛知県にも瀧さんの作られた愛知県緑化センターがあるので、そちらも行ってみたいと思います。こちらは公共性が高いのでもっと良さが発揮されているのではないでしょうか。

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帰りがけに三嶋大社に寄り、新しくできたらしい「大社の杜」という商業施設を見つけました。

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もと何か建っていたと思われるところに共用の屋外スペースをもった小さな店舗が集ったものです。裏や側道に抜ける経路があって行き止まり感がなくて入りやすい施設計画です。そう言った路地空間が魅力を出してます。近隣の建物の色も塗りなおしたようで中に入ると景色に統一感があります。

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階高を抑えて上下階の人の距離も近く、密度感のあるにぎわいを出してます。壁が銅葺きになっていたり、木張り、亜鉛メッキ素地の階段や柱など豪華な装飾ではないですが、素材感を活かした本物志向の空間です。こういう造りだと売っている商品も本物感が高まります。

三嶋大社の真ん前なので、人通りも多いので商業的には好立地です。ちょっと都会的な雰囲気になっているので若い女性がお参り後にお茶するには最適な感じです。この日は七五三参りで3世代の人たちでにぎわっていました。

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三嶋大社の本社前にある舞殿。壁がなくて柱だけの建物です。写真ではいまいちで分かりにくいですが透け感が気持ちよいです。また重量感がある屋根がボリューム感のない柱で支えている見た目は、どことなく浮遊感があります。

 

都心の家 見学会

六本木に近い都心の住宅地に建つ小さな住宅の見学会。地上3.5階地下0.5階の鉄骨造90m2ほどです。設計は伊庭野大輔+藤井亮介+沼野井諭さんです。30代前半の若手建築家の初めての新築作品のようです。これまで著名な設計事務所の所員として、働いている方々なので、初めてといっても、きちんとできてます(竣工前なので工事中ですが)。

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建物はそれぞれの部屋が箱として外部からもわかるような構成です。北側の接道で隣地はびっしり隣家があるため、壁面開口は最小限となり、明るさを得るよう各室天窓が設けれています。

日影規制を回避するために最高高さを10m以下にするため各部屋、低めの天井高さとなっています。

リビングの箱。一番大きい窓で、天井高さも最大ですが、普通の家と比べるとかなり低い印象です。仕上げを内外同じにして外部からの連続感を強めています。

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リビングの一面の壁は、有名な左官屋さんに仕上げてもらっています。天窓からの光でさらに印象的な壁になっています。壁面に平行な光が入ってもきれいに見える仕上がりは具合は、流石有名な職人さんです。

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キッチンとダイニングの箱。作り付け家具で無駄のなくスペースを使っています。キッチンも小さいながら、こだわりが見られます。

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お風呂の箱。開く窓はないです。壁際の天窓から、いい加減の光が落ちてます。

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今風の建物構成に加え、素材感もしっかりあって良い印象でした。

設計者の藤井さんは、前職の事務所の同僚でいっしょに担当した物件もある関係なので、この建物で考えたこと、それがどのような効果になっているかなど、本音を伺えて楽しい見学となりました。

www.hattake.co.jp