八武組 設計ブログ

ハッタケグミ:三重県四日市市の建設会社 設計メモです

永富家 

兵庫県たつの市にある国の重要文化財に指定(昭和39年指定)されている民家。1822年に建てられたそうです。主屋だけでなく門や蔵など付属建物もよく保存されています。

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現在、永富家に関係する企業の所有・管理で非常に良い状態にあります。建物だけでなく建設時の板図などの多くの資料が残されているのも貴重です。

敷地は936坪、建物の面積は153坪と代々庄屋を務めてきた豪農の屋敷です。

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石敷きの正面が家の者の入り口、その左が主人の玄関、その左の入母屋屋根のところが来客(武士)のための玄関です。「在郷家臣」という武士並みの待遇をうけていたのでこのような武家のような造りが許されているそうです。

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使われている梁材は大きな松です。民家でこれほどの大きな材を使っているところはなかったです(写真では大きさわかりにくいですが)。

瀬戸内、山陽の街に近いこと、比較的近年まで使われていた(ご同行いただいた方は、今も残る竈で料理していたのを懐かしんで居られました)ことのためか、関東・越中の山際の民家より、上品な感じがあります。訪問した前日、お茶会があり、そのための設えがそのままになっていたことが主にそう思える要因ですが。

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↑この部屋は本来土間のなかの女中部屋ですが、雰囲気のある待合になっています。

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蔵などの外壁は焼杉です。瀬戸内、特に岡山近辺では多く使われている素材です。今でも使われていることが多いようで、この地方の材木屋さんでは焼杉の板材を常備品としてラインナップしているところがあります(リーズナブルな価格です)。

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オープンハウス見学

杉並区西永福駅にちかい住宅地の戸建て住宅。設計は遠藤誠さんです。

南北に細長い土地に中庭を作って各室採光できるプランニングです。

木造2階建て。

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北玄関から敷地のほぼ南端まで長い廊下をコンクリート土間の空間として通しているのが潔いです。この廊下が所蔵の美術品を飾るギャラリーとなるそうです。いつも以上に素材の種類は少なく、遠藤さんのこだわりの詳細と相まって、シンプル志向の良さがでているように思えます。

1階の大半は基礎底板を兼ねたコンクリート床のままで、その厚い床スラブの中に蓄熱を利用する床暖システムが組み込まれてします。温風をスラブ内ダクトで循環させるものでスウェーデン製だそうです。大きな熱容量のコンコンクリートを使った省エネ暖房です。納入業者の方もいらっしゃたのでパネル式床暖房との違いや蓄熱利用の事例のお話なども伺えました。

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蓄熱要素をいれた住宅の省エネということが最近気になっているところ、良い参考となりました。

第5回みえ木造塾 エスノ・アーキテクチュア

みえ木造塾 第5回はアントニン・レーモンド設計の三重大学レーモンドホールにて行われました。講師は東洋大学ものつくり大学名誉教授の太田邦夫先生です。

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講題は「エスノ・アーキテクチュアとは」です。「エスノ」はエスノロジー(民族学)の略で、その地域や民族にごく一般的な建築や住居を指す言葉として、太田先生が好み使われているものです。現近代の様式化、インターナショナル化した建築に対して、取り立てた評価を受けない民家のようなものを示しています。

三重の地域性を重視した建物づくりができないものかと考えているこの頃にタイムリーな講題です。

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太田先生は特に木造に重点を置いて、世界各所のエスノ・アーキテクチュアを調査されており、紀元前からの木造の建物の変遷や各地で見られる形態の伝来への考察など、事例を挙げて講義いただきました。後半はエスノ・アーキテクチュアを作る技術基盤となるエスノ・サイエンスについて、整数比率による平・断面構成の研究を通じての説明でした。日本各所の遺跡に尺寸法をあてはめ、整数比率を使って建物が作られていることを演繹的に明らかにしていこうとする熱意ある取り組みをお話くださいました。

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↑ 三内丸山の柱位置を尺寸法に割り当てた図です。ほか多くの事例をご紹介いただきました。

先生のお話から、地域のごく一般的な建築が、その地で確立されたで実践的な寸法取りに基づいてつくられることが、ひとつの統一性につながっていると分かりました。

 

祝 礼拝堂完成式

日本基督教団 四日市教会完成式に列席させていただきました。

今年1月に着手し、7月初めに竣工した耐震改修工事を行った教会です。設計は小粥建築設計室さまで、弊社は施工のみを担当しました。

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1950年が会堂献納で、その後伊勢湾台風の被災や施設増築を経て、60年以上使われてきた建物です。古い建物なので耐震性の改善が必要で、新築建替も検討されたそうですが、耐震補強で建物を残し、思いをつなぐことで皆さんの気持ちがまとまったそうです。

設計段階でできる限りの現況調査したものの、見えなかった躯体の欠損状況が解体後明らかになって、耐震補強の可否を問われるほどでしたが、設計の小粥さまと教会関係者の皆様の建物を是が非でも残そうとする並々ならぬ熱意のおかげで当初目指していた形で竣工できました。

式典は、完成記念礼拝と工事の報告を含めた祝会です。三重県の各所の教会の方々が多数参加され、教会が新しく甦ったことへの喜びに満たされた会でした。

仕事をやり終えて多くの人に喜んでもらえること、また将来にわたり永く残っていくものに関われることが建築の仕事の一番良いところだと改めて感じることができました。

旧黒澤家住宅

群馬県上野村の旧黒澤家住宅。桁間21.8m 梁間15.9m ほぼ総2階建て・切妻造り。

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19世紀半ばの建築、形態としては養蚕農家ですが、座敷・玄関(むら玄関・式台)など山中領の大総代の住宅としての特色があります。

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むら玄関と勝手口

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式台。右側には来客着替えのための6畳間があります。

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屋根はクリ板葺き、石押えです。クリ板が痛むとその板を差し替えて維持していたようです。クリ板や石の予備があります。

茶の間は土間に面した31畳半の吹抜のある空間です。

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1階階高は2.3m程度ですが、座敷部は上階を物置として上げて3m近くの天井高さがあります。

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2階はワンルーム。養蚕のためのスペースです。

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日間賀島

市内温浴施設ユーユーカイカンさんの企画する研修懇親会で、知多半島先端の日間賀島に行ってきました。

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観光協会・まちづくり協議会理事の方から、日間賀島振興の取り組みを伺いました。

周囲5kmの島に630世帯・2000人弱の住民。島の産業は観光業と漁業です。約100軒の旅館・民宿があり、そこで働く方以外は主に漁師さんで、水産加工業は、ほとんどないそうです。島はタコで有名ですが、冬のフグ料理が大きな集客要素となっているようです。漁業で最も多いのはシラス漁で、ほかにアナゴ漁・地引網・貝などの潜水漁など、全国的にも上位の多種の漁種があり、タコ漁はその一部だそうです。

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本土から2kmほど離れているだけなので少し船を乗るという手間はあるものの、名古屋へも対岸においてある自家用車ですぐと行けると、不便さを感じていないそうです。島で住み続けようと思う人が多いので、各所で心配されている漁師さんの後継者不足も、この島では問題ないそうです。島内の小学校の児童数は100人を超えています(四日市の街中よりも多い)。

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家々は、狭い土地に高密で建つ島らしい建ち方です。隣りの家の話も聞こえるほどでプライバシーの確保は難しいですが、島に住む人たちは、そういう暮らしが良いと思われているようです。大半の道路は車が通れない巾で原付が活躍しています。

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島の最上部に墓地があります。津波でもお墓は流されないし、ご先祖さまに見守られている感があって良いです。

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各戸に井戸があって水を自給しているようです。愛知県の島で唯下水があるのも自慢の一つです。

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島は観光業と漁業の人が一団となって島を盛り上げようとしています。他の地域より高額の組合費を出し合って、行政に頼らない島の維持運営を行っているそうです。

輪中生活館(旧名和邸)と大垣

岐阜県大垣市にある輪中生活館(旧名和邸)。当地域の歴知的地理特徴の輪中地区の代表的な住居形式を復元した住宅です。木曽三川の下流部に見られる水害対応の水屋をもった古民家を以前から見てみたいと思っていました。

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旧名和邸は、母家・土蔵式水屋・住居式水屋・納屋の4つの建物で構成しています。母家は明治4年に建てられたもので、その後住居式水屋が明治15年、土蔵は23年築だそうです。納屋も明治15年築ですが、損傷が大きく外観のみ復元で軸組は新しいものとなっています。

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明治初期の建物なので古民家としては比較的新しいです。復元整備されているので、状態がよく、昔の家の良さを感じるには、とても良い施設と思います。

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母家の半分は土間です。一般的な古民家の構成と同じで、炊事用のかまどがある土間部分は天井がなく大きな空間で、半外部的な気持ち良さがあります。居間など人の座る部分は天井があり、空間は抑えられますが、土間に対し落ち着いた心地よさがあります。

輪中の住居の特徴として、入り口近くの土間部分に非常用の木船が天井に備わっています。家の中に水を引き込んだ水場もきちんとしています。

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家の中には当時の日常の生活のわかる資料の展示があります。

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母家の奥には離れ座敷(住居式水屋)が1.6mの盛土の上に建っています。洪水時にはここに避難できるようになっていて、トイレもあるそうです。

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奥には2.2mほ盛土の上に土蔵式水屋があります土蔵は周囲の水田からすると4mほど高い位置となっています。

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水害の危険の反面、水の利便性は高く、井戸自噴式だそうで、地面から1.5mの高さまで水が上がるようです。井戸は今も水を出しています。

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昔の様子の模型(各建物の構成はこのまま)。屋根は本来茅葺だったようです。模型ほどは水が迫っていたとは思えませんが。

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入場料は無料で気軽に見れます。周りの集落の面影がないのが少し残念です。

ついでに大垣市内も少し散策。

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水の都と宣伝しているように水路があり、自噴式井戸も数か所解放されていて、街の魅力的には高いように思えますが、古い要素が少なく、良い雰囲気の界隈は見つけられませんでした。

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自噴の井戸は水量も多く、水を汲みに来る人もたくさんおられるようです。

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市役所前の公園の緑と噴水。よく水もなく放置さえている場合が多いのですが、ここは流れのあるきれいな水で豊富な水音も聞こえ、心地よさそうです。

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松尾芭蕉奥の細道結びの地としてもアピールしています。そこにも井戸があります。

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古い建物を活かしたレトロ風のチーズケーキ屋さんは、感じ良くおいしそうに見えます。こんな感じで古いもの活かしでお店が並ぶと良いのですが。

水路沿いの半分廃墟のビル、リニューアルすると楽しいそうな要素が感じられます。

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